本
アーシュラ・K・ル=グウィン『ラウィーニア』
ここ一年以上熱を上げているソシャゲ「魔法使いの約束」のキャラクターのなかに、ファウスト・ラウィーニアという人がいる。まほやくのキャラクターはファーストネームの由来になった作品がそれぞれあると言われていて、ファウストの場合はゲーテの『ファウスト』であるわけだが、たまたまそれを手にとったのと同じ日に図書館で棚を物色していたら偶然この本が目に留まった。こんなの読むしかない!と思って手にとったら、これがすっごくおもしろくて一息に読み通した。ひらたく言うなら、紀元前の詩人ウェルギリウスの『アエネーイス』の、ル=グウィンによる盛大な二次創作。もともとが紀元前の作品だから男性中心的な世界観ではあるけど、ウェルギリウスの詩の中ではただの脇役にすぎず台詞もないラウィーニアを主人公にして、その視点で物語を描き直すの、それ自体がフェミニズムだし、女を意志ある存在として描いてやろうという気概を随所に感じて心震えた。
かの詩人がわたしを歌った部分は、わたしの髪に火がついた瞬間を除いて、あまりに退屈。(略)だから、もうわたしはがまんできない。もし、これから何世紀も存在し続けなければならないのなら、せめて一度、口を開いてしゃべりたい。彼はわたしにひと言もしゃべらせてくれなかった。
一人称で語られる意味のある作品だった。出会わせてくれてありがとうまほやく。
ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』
これはたぶん五年ほど前に読んだ方が響いた作品だったろうと思う。私はもうすっかり車輪に組み込まれている。
小野不由美『風の万里 黎明の空』上下巻
祥瓊も鈴も、甘ったれていて鼻につく感じを出しつつ、それでも嫌いになれないという絶妙なバランスのうえにつくられた人物像で、うまいなあと思った。
エミリー・ブロンテ『嵐が丘』下巻
こんなにも誰一人として登場人物に共感できない話があるか?と思って、かえっておもしろかった。きっと再読したら物語の構成のうまさとかが見えてくる作品なのだろう。
柴崎友香『春の庭』
高校一年の現代文の授業で、2000字程度の短編小説を書いて、生徒どうしが互いの作品を匿名で評価するというものがあった。私は『素粒子と小人』という題で、通学路にある廃屋をモチーフに書いたのだったが、『春の庭』は、なんとなくそのことを思い出す筆致だった。うだつのあがらない会社員がとある廃屋に惹かれて、その家と一緒に生活を立て直す、みたいな話だったと思う。十五歳が書くにはずいぶん渋い物語だ。当時の原稿は紛失してしまって見つからないが、他の生徒が記入した評価シートを見つけた。文章力、構成・展開力、オリジナリティ、想像力、共感度が各4点、総合評価10点の30点満点で、16人からの評価の平均が24.8点。中途半端な優等生の私らしい評価だ、と苦笑いした。自分としてはわりあい気に入っていたけれど、他の生徒の作品の独創性、おもしろさに、敗北感をまざまざとおぼえたことをよく覚えている。ぐいぐいと読み手をひきずりこむようなものは自分に書けない、という諦念は今の私にも深く根ざしている。でも、自分の得意分野が日常のなかにひそむ物語をすくいとって描写するタイプの文章だ、というのは十年以上前から変わっていないらしい。苦さとともにいろいろ思い出させられた作品だった。春は苦い。
伊集院静『冬のはなびら』
清水良典の解説が良かった。以下引用。
日本の若者が進んでやらなくなったそういう3Kの仕事を、今は海外から日本にやってきた多くの労働者が安い賃金で引き受けている。そして世間は、ビジネスの競争を勝ち抜いて巨万の富を手にしたやり手を、華やかなスター扱いする。(略)まだ人生の何たるかを知らないような若者までが、他人の人生を『勝ち組』だの『負け組』だのと裁断する。(略)そんな風潮はおそらく、高度経済成長とともに育ち、バブル経済のころに日本の最深部まで侵食した業病であるような気がする。バブル経済は徒花であったが、そのときから虚しい毒花の夢が心の中に根付き、しつこく生き延びているのだ。(略)本書は、そういう時代にひっそりと置かれたレジスタンスのような短編集である。
貫 成人『哲学マップ』
初学者にはこういう距離感がありがたい。それでも理解しきれなかった部分はあるが、著者が「読み手の頭に地図を作りたい」と書いていたのがまさに私のニーズに合致していて、読んでいて楽しかった。
谷崎潤一郎『痴人の愛』
「女を性的にまなざす男」の視線が最初から最後までずっと気持ち悪くてすごかった!しかしおもしろいのでついついページを繰る手が止まらなかった。下卑た好奇心で読み進めてしまう自分に対する自己嫌悪もふくめてすさまじく不愉快な読書体験で、良かれ悪しかれ、そういう強烈なインパクトを読者に与えるところに名作と呼ばれる所以を見た。でもこれが名作だと担ぎ上げられる文芸界、端的に気持ち悪すぎるとはやっぱり思う。
漫画
今月はぜんぜん漫画を読まなかった!
峰倉かずや『WILD ADAPTER』1~7巻
はじめの数巻が無料になっていて読みはじめたら止まらなくなってしまって、一息に読みとおしてしまった。
芥見下々『呪術廻戦』10~19巻
作者が同年代だけあって、私が読んで育ってきた少年漫画の気配を随所に感じる作品だと思う。懐かしさがあっておもしろい。
この作品にかぎった話ではないが、物語を飲み込む力が、年々弱くなっているように思う。読み進むごとに「どうしてこうなったんだっけ」というのを反芻しないとついていけないのが惜しい。集中力を養いたいのだが、どうすれば良いのだろう。
アニメ
TIGER & BUNNY (1期)
好きだった女の子がいつか傾倒していた作品で、以前にも一度観ようと思ったものの数話でつまづいていた。2期が来たのを機にもう一度観てみようと思ったら、これが信じられないくらいおもしろい。バーナビーが初めて虎徹を「虎徹さん」と呼んだ場面で思わず泣いてしまった。
映画
チタン/TITANE
RIDERS OF JUSTICE
残された者 -北の極地-
ANOTHER ROUND
2022/4/23 - 地上のまなざし
池袋文芸坐の「春のイケオジナイト 頑張れ!マッツ・ミケルセン」と題されたオールナイト上映にて鑑賞。なかでも『アナザーラウンド』は連れが絶賛していたので期待していたが、仄暗さとおもしろさのバランスが最高ですっかり大好きになってしまった。
スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結
連休初日の夜、突然家にやってきた連れと一緒に観た。ばたばた人が死んでいくのに、「子どもを殺すのは絶対にダメ」という明確な倫理が悪役たちにも共有されているそのバランス感が良かった。バーでのシーンがすごく良かった。映画の見方はまだ全然わからないけれど、あのシーンがあるから他のグロテスクさと釣り合いがとれているのだろうと思ったし、それゆえ後味が悪くならなくて、清涼感すらあってすごいと思った。
舞台・ライブ
4/17 NIGHTMARE NOX:LUX Tour Final @Zepp Divercity Tokyo
4/23 宝塚 宙組『NEVER SAY GOODBYE』
4/30 滝澤諒 Solo Event『49692』
これはどこかでちゃんと書きたい。最前列の特等席で目に焼き付けてきた。ほんとうにほんとうにすっごく楽しかったし、行く前よりもずっとずっと大好きになって帰ってきた。滝澤さんのことを好きになってよかった、って大声で言いたい。
音楽
NIGHTMARE『NOX:LUX』
ライブに行く前にもっと聞きこんでおけばよかったなあと思ったけど、ライブに行ったことでアルバムの良さにあらためて気が付いて、それからしばらくずっと聴いていた。
春ねむり『春火燎原』
インターネットで見かけて聞いてみたら好きだった。
このあいだ年が明けたと思ったのにもう五月。どうなってるのさ。