記録:2022-May

連休あるからたくさん読めるはず!と図書館で大量に借りたものは連休中にはほとんど読みきれなかったものの、中旬あたりから突然本がものすごく読めるモードに突入してけっこういろいろ読んだ。

青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』

直前にゲーテの『ファウスト』、ヴィクトル・ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』と重めの作品を読んだところだったので、軽妙な筆致が箸休めにありがたかった。小学生のころ、松原秀行の<パスワード>シリーズばかり読んでいて、母に「おやつばかりじゃなく主食も読みなさい」とよく言われていたことを思い出す(母のいう主食とはジュール・ヴェルヌとか、C.S.ルイスとか、そういうものだった)。

キャラクターの命名や台詞まわしにうっすらと西尾維新の気配を感じる。読み口の軽さはライトノベルに近いけれど、感覚としては漫画に近い小説だなあと思っていたら、解説でも同じようなことが書いてあった。

青崎には複数のシリーズがあるが、どの作品でも主題となる謎解きとは別に、キャラクターたちの人間関係や過去に読者の関心を促すように構成が行われている。こうした手法は小説というより、連載漫画から学び取ったもののはずで、たとえば二〇一五年から開始した<アンデッドガール・マーダーファルス>(講談社タイガ)は迫稔雄『嘘喰い』(集英社ヤングジャンプコミックス)の影響下にある。

もともとこの著者の作品を読もうと思ったのは、好きな声優と対談をしていたことがきっかけだ。ちょうど今日、その声優が『嘘喰い』の話をしていたのを目にしたところだったから、思わぬ符合に驚いた。もしかしたら著者との対談のときに聞いて知ったのかもしれない。数日徹夜するほどおもしろかったというから、そちらも読んでみたい。

ヴィクトル・ユゴー『ノートルダム・ド・パリ』下巻

劇団四季の公演を観に行く前に読み切るという目標を無事に達成できて満足。

解説によると、ユゴーははじめこそこの作品を書くことに乗り気でなかったそうだが、結末を読んで、これが書きたかったのだろうと納得した。ディズニーのアニメは以前に観ているから、この陰鬱な物語がディズニーの手にかかるとあんなふうに作り変えられてしまうのか、というおもしろさがあった。ヒーローとヒロインのヘテロ恋愛というディズニー定形のハッピーエンドはあまり好まないが、エスメラルダのキャラクターはディズニーのほうがいい。ディズニーのほうのエスメラルダは、フィーバスが惹かれるのもやむなしという、自立した芯のある人間として描かれている。原作のほうは男の願望をつめこんだ、無垢でいたいけな少女という色合いが強く、おそらくユゴー自身がフロロにもっとも近いからだろうが、そのまなざしに気色悪さがある。原作ではエスメラルダの一方的な片想いに近く、フェビュス(フィーバス)はそれを都合よく搾取する、ただ軽薄なだけの男だが、原作のエスメラルダの幼さはその展開に必然性を与えるように思う。エスメラルダを人間としてあつかうのはカジモドだけだ。エスメラルダがカジモドを人間として扱ったから。

登場人物の多くがそれぞれかかえる醜さがぐちゃぐちゃしていて、すごく読みごたえがあった。だからこそカジモドやエスメラルダの清らかさが燦然とまぶしく見える。

ゲーテ『ファウスト』第二部

図書館の貸出期限を何度も延長して、ようやく読了。とはいえ、話を追うのに精一杯でぜんぜん噛みしめられなかった。メフィストはやっぱりかわいかった。

第一部のほうが読みやすかったのはやっぱり書いてる時のゲーテの年齢が近いからだろうか。10年おきに読み返したい気がする。解説で中村光夫も書いていたように、ぜったい年をとったほうが面白い作品だろうと思う。

多和田葉子『地球に散りばめられて』

出張先の本屋で裏表紙のあらすじを読んでからしばらく気になっていたのだが、その後、横浜市教育委員会が作った、今年の新成人向けの推薦図書を載せた「20歳の20冊」という冊子のなかで、斉藤壮馬さんがこの本を薦めていたことを知った。読んでみてすっかり壮馬さんへの信頼を深めてしまった。信頼している、と表明することはときに脅迫たりうるわけだけど、好きになった人が信頼にたる人でほんとうに嬉しい。物語としてもすっごくおもしろかった!ところどころで、外からの目線で描写される日本という国の奇妙さがユーモラスで思わずくすりと笑ってしまったり。私は満足につかえる言語が日本語しかないけれど、そのことを心底悔しいと思いながら読んでいた。

セーレン・キェルケゴール 鈴木祐丞編訳『キェルケゴールの日記 哲学と信仰のあいだ』

すごく良かった。今年の上半期ベストかもしれない。『死に至る病』を読んで漠然と抱いていた「信仰とは状態ではなく意志である」という自分の解釈の方向性が間違っていなかったこと、そして何より、彼のいう「弁証法的態度」というのがようやく掴めた感覚があったことが嬉しかった(これはこのあと『哲学思想史』を読んでさらに一段理解が深まった)。今もう一度『死に至る病』を読んだら、きっともっと見えるものは多くなっていることだろう。

やはり日記というのは内臓だ、と思った。この本を読んでキェルケゴールの人となりを知ってその思考に接するのとそうでないのとはまったく違って、言葉がちゃんと生きた意味を持つようになった。

沼田真佑『影裏』

文体にあまり馴染めず、分量は多くないのにけっこう読むのに時間がかかったけれど、淡々としたマイノリティーの日常をあたりまえのものとして書いた作品が大きな賞を受賞していることには素直に希望を見たい。『陶片』という、女を愛する女の視点で描かれた掌編に静かな怒りが満ちていて好きだった。

橋爪大三郎『はじめての聖書』

宗教の授業をまじめに受けた記憶がなくても、10年キリスト教学校に通っていればそれなりに知っていることばかりだったけれど、キェルケゴールの思想を理解するうえで基本の基本に立ち返れたという意味では良かったと思う。聖書の通読を試みているものの創世紀すらまだたどり着けていない有様だけど、いっそ新約のほうから読んでみてもいいかもしれないなあ。そのほうが絶対に馴染みはあるわけだし。

中学生を対象として書かれただけあって平易な文章でわかりやすかったけど、わりと序盤のほうの「フェミニストのひとが、聖書はよくない、先に男を造ったと書いてあるから、というかもしれません。そうしたら、よく読んで下さい、男女はいっぺんに作られたとも書いてありますよ、と言ってあげましょう。」がすっげ~ムカつくな!と思った。別にフェミニストはそこだけで聖書を批判しているわけではないと思うんだけどな……ちょっと卑怯じゃない?とフェミニストは思った。そこに触れる意味あったのかな。フェミニズム神学についての良い書籍も読んでみたいんだけど、日本語だとなかなか文献がなさそうで悲しい。

淡野安太郎『哲学思想史』

七十年以上前に書かれたものだから、やや堅苦しさはあるとはいえ、今まで読んだ哲学史の入門書四冊の中では圧倒的に良かった。むろん、これまでの三冊である程度自分の中に知識の基礎が出来上がっていたというのも大きいのだろうけども、一番わかりやすくてとても良かった。

恩田陸『夜の底は柔らかな幻』上巻

哲学思想史の箸休めに読みはじめたらぐいぐいひきずりこまれて、あっという間に読み切ってしまった。私は殺伐とした話が好き。この物語での在色者の位置づけが、ちょうど同じ時期に観ていたタイバニのネクストになんとなく重なるものがあっておもしろかった。恩田陸、中学生の頃にすごく好きで、それなりに著作は読んでいるはずなのだけど、新しい作品を読むたびに、「この人ってこういう話を書く人だっけ?」と狐につままれたような気持ちになる。

川上弘美『蛇を踏む』

背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。

惜夜記という掌編の冒頭である。たった一文で、こんなにも夜に連れて行かれてしまう。今はもう見ることのできなくなった夢のような既視感が漂い続けていて惹きつけられた。

もっともよく本を読んでいた小学生のころには、解説というものをほとんど読まなかったが、今になってそのことを惜しく思う。川上弘美の作品は分類学の遊園地である、とする松浦寿輝の解説がとてもおもしろかった。漠然と抱いた印象をするりと言葉にされることの痛快さ、そこには当然悔しさもあるけれど。

■漫画

野田サトル『ゴールデンカムイ』

前回の無料公開のときにもほとんど読んでいたので、実質の再読。こうしてお金をかけずに作品のおもしろさという恩恵に預かってしまうことに後ろめたさがある。二度目ともなれば以前よりは話がわかるようになった分だけ楽しめたけど、終わり方にはずいぶんと性急さを感じた。単行本でがんがん加筆されるんだろうなあ。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』

こちらも無料公開中に、連れに勧められて。安直に競馬を見に行きたくなった。

『血界戦線』

これも無料公開期間で。アニメも大好きだけど、原作もすごく良かった。時間切れで途中までしか読めなかったのが悔しくてならないので、そのうちきちんと読みたい。

アニメ

TIGER & BUNNY 2期

他者との信頼という、タイガーとバニーの間で描かれ続けてきたテーマが、ほかのヒーローたちにまで拡張されて、そのなかで見えてくるそれぞれの葛藤とかすれ違いとかがうまく引き出されていて、バディー制度、最高だった。それぞれちょっと不器用だったりダメだったり情けなかったりして、全員愛おしくてかなわない。あんなにも殺風景だったバニーの自宅にわさわさと観葉植物がならんで、バニーがそれを愛でているのを見たときには思わず泣いてしまった。アニエスを太らせた意図だけがわからなかった。時間の経過を出したかったんだろうか。そうである必然性がわからなくてちょっとモヤ。続編がありそうな終わり方なので、楽しみにしていたい。

バクテン!!

もうすこし泥臭い場面が見たかったなあ、という物足りなさがある。テンポが性急に感じたというか、とんとん拍子で話が進みすぎているように感じてしまった。でも、弱小の無名校で学年の違う生徒たちを主人公に、全国レベルまで引っ張っていくには、そもそも現実的な物語展開を求めるほうが野暮だというのもわかる。志田監督自身の話にしっかりと尺がとられていたのは良かった。中高生のスポーツ青春ものは、どうしても大人は主役になりえないけど、この作品での監督はちゃんと主人公たちと同じ大きさで描かれていると感じられたし、何より悩み惑う不完全な大人として存在していたのがすごく良かった。怪我を負いながらも試合に出たいという翔太郎の願いは、彼の選手生命が絶たれる可能性だけでなく、その結果によっては部の存続も危うくするようなもので、だからその思いを後押しすることは、大人、そして教育者として絶対にしてはいけないことだと思うから、私は志田監督の選択に賛同はできない。そうして大人が代わりに正しい道を選択したことで、「自分で選択できなかった」という無力感を子どもに与えかねなかったのもわかるし、そういう傷を与える恐怖を引き受ける覚悟がなかったから私は教育者にはなれなかったわけだけど、「正しさを押し付けるだけでなく、彼らに選んでほしかった」というのは大人の欺瞞であり無責任だと、私は思ってしまう。だからこそ、翔太郎の試合参加をゆるしたことを美談で終わらせずに、志田監督自身に「自分は教育者として間違った選択をした」と語らせたことは、作品における最低限の真摯さだったととらえてもいいだろう。

映画

TIGER & BUNNY 劇場版 The Beginning

1期総集編+α、本編でなかったカットがたくさんあって楽しかった。

TIGER & BUNNY 劇場版 The Rising

劇場版かくあるべし!というスケールで街がどかどか破壊されていて良かった。ライアンかわいい。

Free! 劇場版 The Final Stroke 後編

若干の消化不良感!もっと咀嚼したい……

tick, tick....boom!

RENTという作品がそのままジョナサン・ラーソンその人の物語であるというのが、これを見てよくわかった。30歳の訪れ=若さの喪失、という恐怖感は私にもあるけれど、私はもうとっくに魂を売ってしまった。

舞台・ライブ

5/1 リーディックシアター THE∞Family team.Fancy

笑ってしまうほどに運営が最悪だった現場。久しぶりにこんなの体験してだいぶおもしろかった。けど、演者の演技はすごく良かったし、生バンドも聴けて満足度は高い。羽多野さんがすっごく良かった……。脚本としてはちょっとトランス女性に対する理解が甘い印象はあってややモヤっとはしたものの、演じていた羽多野さんがすさまじく良かったので大好きになりました。でも声優界も当事者性のある演者が演じられる空気がもっと当たり前になってほしいと思う。

5/8 滝澤さんトークイベント

楽しかった!!!!!!!!楽しい接触ってあるんだ!という気づき。

5/14 アラジン

数カ月ぶり10回目?のアグラバー。下手寄りだけどかなり前の方だったので、細かいところまで見ることができて楽しかった。厂原アルはやっぱりきらきらしていた。門田ジャスミンは初見だったが、声量に圧倒された。でもやっぱりひよこよろしく最初に見たキャストを親だと思い込むので私は平田さんが好き。牧野さんジャファー、イアーゴへの愛がさらにあふれていて大変に愛おしくて困った。この日はどこかでイアーゴの顎を撫でる仕草がアドリブで入っており、大好きじゃん!とにこやかな気持ちになった。フレンド・ライク・ミーの途中、舞台袖からタクトを持ってくるはずのジーニーがアルの人形を持ってきて「間違っちゃった!」って顔をしていたのも愉快だった。