記録:2022-Sep

もう11月だというのに、9月の記録を書いている。

アチェベ『崩れゆく絆』
友人に借りた。ものっすごく良かった。ぐるぐるしていてまだ言葉にならないけど、自分の中でずっとある「先進的」な価値観の信仰の欺瞞性に対する違和感が強化された作品だった。読みやすくて変に捻って考える必要もなくまっすぐ伝わってくるからこそ、いろいろ考えが湧き上がる。前月に読んだ『排外主義克服のための朝鮮史』で、朝鮮史は常に停滞史観と他律史観のフィルターをかけられてそこに生きる人々の自律的発展性が過小評価されてきたという話が書いてあったけど、アフリカにもたぶん同じことがいえるだろうなと考えながら読んでいた。
エーリッヒ・フロム『悪について』

『自由からの逃走』の補助テキストという感じで、新鮮な感動を得られたわけではないが、終始納得感の強い内容だった。最終章のこの部分にはとくに深く頷いた。前に同じような文章を書いたこともある。

悪は人間的な領域を越えて、非人間的な領域へ移ろうとする試みだが、それは実に人間的なことなのだ。(略)悪とはヒューマニズムの重荷から逃れようとする悲劇的な試みのなかで、自分を失うことである。

フロムが悪の要素として挙げている三つのうち、ナルシシズムとネクロフィリアはとくに身に覚えがある(ネクロフィリアは昔より脱していると思うが)ので、自分の中にいるそいつらに挨拶しながら読んでいる感覚だった。近親相姦的な結びつきのところは体感に落とし込めなかったので、いずれ再読したい。

今村昌弘『屍人荘の殺人』
駅の本屋に立ち寄ったときに、ふだん手を伸ばさないジャンルを読んでみようと思って購入したものだが、内容のおもしろさは別にしても、自分で謎を解く趣味がない私は、種明かしによる爽快感を早く得たいがためにざくざく読んでしまうので、コストパフォーマンスの悪いものだな、というのが印象。ミステリ全般がそうなのか、この作品なのかはわからないが、性格的にあまり向いていないのだろうと思う。
ブッツァーティ『タタール人の砂漠』
これも友人に貸してもらったもの。今月随一、というか今年読んだなかでも片手の指に収まるほど良かった。
この<時の遁走>というテーマは作品の構成からもはっきり見て取れる。たとえば、『タタール人の砂漠』全三十章のうち、最初の一章から四章までが砦への道中と到着という二日二晩の叙述に費やされ、五章から十章にかけては砦での二か月間に、十一章から十五章までが二年後の、十六章から二十四章までが四年後のことの叙述に当てられ、残りの五章でドローゴに残された「歳月が夢のように過ぎ去って」しまう経緯が一気に語られるのである。
ブッツァーティ『タタール人の砂漠』脇功訳(岩波文庫)訳者解説より
本を読む時、本を上から眺めて、自分がどのくらい読み進んだかを確認する癖があるのだが(読書をただの消化作業に落とし込んでいるようなので悪癖だと思っている)、私の物語をそうして俯瞰して見たとき、いったいどれほど経過してしまったのだろう。時の遁走はすでに開始している実感がある。まもなく三十だから、寿命としては半分にも満たないだろうが、たぶん小説としてはもうとうに折り返しを過ぎているはずだ。
沢木耕太郎『バーボン・ストリート』
こんなにも心を奪われる筆致が他の人間によるものだという現実にいつも打ちのめされる。幾度生まれ変わってもこの人になれない。彼の文章は淡々と精緻で、それゆえ酷薄で、何かを書くという行為が暴力的なものだというのがよくわかる。親しい相手について書いているはずなのに、親しさを読者に感じさせない。この人に書かれるのは怖いだろうと思う。
人間らしい熱っぽさや湿っぽさには欠ける淡々とした文章だが、それはけっして彼の存在を読者に意識させないということではない。むしろ、そうして丹念に整形され並べられた言葉たちからは、むせかえるほどに沢木耕太郎という人間の存在を感じる。ところどころに織り交ぜられる謙遜すらも計算づくであることがちらついて見える、自分をどういう人間に見せたいかを意識した文章。そういう自意識の匂い立つような人間のことがどうしようもなく疎ましくて、それでいて惹きつけられてやまない。世界で一番好きな文章を書くひとだと思ってきたが、私は案外このひとが大嫌いなのかもしれない。
好きな声優は音楽を作るひとでもあり、文章を書くひとでもあるが、彼の書く詞や綴る言葉にも同じことを思う。自分のつくるものをあまねく認められたい欲望と、自分を満足させられさえすれば良いという開き直りとの狭間でうまれるものは、鈍く暗く美しい光を放つ。そこに美しさを見出すかは好みだろうが、私自身がそういうものの間でふらふらしているから、同じ気配を感じるものに吸い寄せられてしまうらしい。
坂口安吾『私は海をだきしめていたい』
坂口安吾と中原中也の企画展を山口県の中原中也記念館でやっていたのに行けなかったのがとても心残りで、いまだに思い出してはため息をついている。悔しいね。

漫画

キヅナツキ『ギヴン』
高校や大学の空気の匂いとか思い出してぐちゃぐちゃになる。

映画

TOPGUN MARVERICK
佐々木、イン、マイマイン
 

アニメ・ドラマ

ORANGE IS THE NEW BLACK Season 1~3

 

舞台・コンサートなど

PENTAGON Japan Live Feelin' Like

お久しぶりでした。