2023/1/21

正午近くなって起きる。昼食にできるものが何もなく、コーヒーを淹れて空腹をごまかす。昨日塗った爪の根本が早くもすこしだけ伸びてきているのをしげしげと見た連れは、「イーニッドみたいにできればいいのにね」と言って笑っていた。『ウェンズデー』の登場人物イーニッドは、ふだんからポップな色合いに爪を塗っているかわいいもの好きの人狼で、不安を感じたりした時に爪がシャッと鋭く伸びるのだが、伸びても爪全体にちゃんと色がついているのだ。でもそのあと、あれはたぶん色がついた状態で伸びてくるのではなくて、爪を出し入れして、出した状態で根本まで塗っているのでは?という話になった。

午後はひさしぶりのボランティア。子どもと向き合うときがいちばん嘘がつけない。緊張感でひりひりするけど、ちゃんと人間をやっている気がして、好きな時間。

さすがに空腹に耐えかねて、スターバックスで軽食をとった。ここ数年は足が遠のいていたうえ、たまに立ち寄ることがあっても甘いものを選ぶことが多いので、ラテを頼んだのはずいぶんひさしぶりだったのだけど、久しぶりに口にした瞬間、大学院の受験勉強をしていた頃の記憶がぶわっと蘇ってきてびっくりした。大学四年の夏、大学が遠くて手頃な勉強場所がなかったので、ひと月ほど、近所の店舗に通ってはずいぶんと長居をして付け焼き刃で詰め込んでいたことがある。たいした注文もしないくせに長居をして、店の奥のテーブルで突っ伏して居眠りをするのもしょっちゅうだったが、あるときそうやって目を覚ましたら、「試験がんばってください」というメッセージの書かれた、新作の甘いものが入った小さなカップがサービスで置かれていたことがあったのをふと思い出したのだ。アメリカでの労組結成の妨害のこともあって、なるべく避けたい店ではあるけれど、あれは嬉しかった。

夜は青年団の公演『日本文学盛衰史』を観た。本の趣味が合う大学の後輩がInstagramで良かったと投稿していて、気になってチケットをとったもの。高橋源一郎と平田オリザなので左に寄るであろうことは想像の範疇だったものの、思った以上に風刺が効いていてけっこう笑った。現代の時事ネタと、近代文学の名著や作家たちの知識が要求されるかなりハイコンテクストな脚本で、たぶん拾いきれなかったものがたくさんある。それでも、断片的な知識で理解した範囲だけでも、近代文学の読み方を大きく変えられてしまった感覚があった。というより、これまで読んだつもりでいたものは、何も読めていなかったんだなと思った。言文一致ということの大きさを、思索を言葉にすることの意味を。といっても、私、そもそも明治期の文学ってろくに読んでいないのよね。作中に名前があがった作品のうちでちゃんと内容や文体を思い出せたのは国木田独歩の『牛肉と馬鈴薯』くらいだけど、あれがいかにすごいものだったのか、この劇を観てやっとわかった。本が読みたい、とめちゃくちゃ思った。本が読みたい。

学生時代はたまに観ていたが、小劇場演劇はかなり久しぶりだったので、懐かしい感じでとても楽しかった。おもしろかったし、琴線に触れて泣いた場面もいくつかあったのだけど、まだうまく消化できていない。つくづく自分は言葉に落とす瞬発力がない人間だなと思う。よくわからないまま終わりにしてしまいたくなくて、上演台本を買った。