2024/4/26

午前9時過ぎに布団から起き出す。台所を掃除してソファに出しっぱなしになっていた洗濯物をたたみ、掃除機をかけたりしているうちに、早番を終えた連れが帰宅してきた。私がせっせと家をきれいにしているのをみて「立つ鳥になってる」とさみしげな様子でいる。カップ飯を分けて食べて、駅まで送ってもらって別れた。

連休直前の空港なんてどれほど混むかと思って3時間半前に到着していたが、思いのほか空いている。チェックインも両替もあっという間に終わって、友人と落ち合うまでずいぶんと暇を持て余していた。そのあとの保安検査もすんなりと終えて、搭乗時刻までは1時間ほど余裕があった。友人の一人は今日が締切だという論文を書き終えておらず、搭乗の直前までパソコンを必死に叩いていたが、その傍らで私は売店で枝豆とビールのセットを頼んで、休暇のはじまりを謳歌していた。

午後4時、搭乗。友人は無事に論文を提出した。成田からメキシコシティへの直通便は、日本初の最長路線だそうだ。眠れたのは最初の2時間ほどで、あとは目が冴えてしまって映画をひたすら観ていた。『WISH』、『リメンバー・ミー』、『そばかす』、『ポトフ 美食家と料理人』の4本立て。

『WISH』はディズニーの100周年作品。友人に勧めてもらったものの、ディズニーがイスラエル支援の立場を表明していることで積極的にお金を落とすのが嫌で観る機会がないままでいたので、ちょうど良かった。作品としては明確な革命の物語ですごく良かったのだけど、どこか釈然としない感じが残る。影響力の大きい企業がこういう作品を作る姿勢はとても評価したいのだけど、どことなく「はいはい、こういうことを押さえておけばいいんでしょ」という気配を感じるというか、マイノリティの表象がノルマとして消化されている感覚があって、制作陣の作品やキャラクターに対する愛とでもいうべきか、「こんな素晴らしい物語なんだ、こんなに魅力的なキャラクターなんだ、見てよ!」という押しつけがましさがあまり感じられなくて、ちょっと物足りないような気がした。マイノリティに関する表現を盛り込むべきなのは(マジョリティ表現に偏っていた今までのことを思えば)当然だとしても、いなすような作り方はしてほしくないのに。

『リメンバー・ミー』はメキシコが舞台で、旅程にも組み込んだグアナファトの町並みがモデルになっているというので楽しみに観た。ピクサー作品はつくづく人間の想像力の翼の力強さを思い知らされて嬉しい。『マイ・エレメント』を観たときにも思ったことだけど、描かれるものが必ずしも気に食わなくても(家族至上主義的なところには閉口した)、人間がこういう世界を創れるのだということに、とてつもない希望をもらえる気がする。

『そばかす』はひとことで言ったらクソ映画ということになっちゃうんだろうな。Aro/Aceへのマイクロアグレッションのオンパレード。ばりばりにロマンティックで性愛者の私がこういうことを言うのも変なのかもしれないけど、マジョリティへの啓蒙のために、マイノリティが傷つき続ける描写の連続に削られてうんざりした。前田敦子はすごく良かったけども。

『ポトフ』、ほんとうにすごくすごく良かった。美しいシーンの数々が、今もまぶたの裏に焼き付いているような気がする。オールタイム・ベストかもしれない。同じくオールタイム・ベストに入れている『イニシェリン島の精霊』も、昨年中国に出張に行った際の機内で出会ったものだったから、フライト中の映画をとても楽しみにしていたのだけど、その甲斐があった。

現地時間の午後2時ごろ、メキシコシティ国際空港に到着。飛行機に12時間乗っていたはずなのに、成田を出発したときよりも時間が巻き戻っているのは、わかってはいても不思議なものである。以降の話は旅行記として別で書く。