書けない

 

書こうと思っていることはたくさんあるのに。
書けない。何も出てこない。私を書くことに駆り立てていた、あの突き動かすような衝動は、一体どこに消えてしまったのだろうと思う。

書きたい、よりも、書かなくては、の方が強い。とてもよろしくない。書かなくなったら自分が保てない気がするから、言葉にすることをやめたら私は私じゃなくなってしまう気がするから、必死に絞り出している感覚がある。無理をしている。

 

念入りに体毛を処理して、丁寧に化粧をして、耳元にピアスを飾り、体のラインを綺麗に見せてくれるちょっと良いシャツを着て、美容院に行って髪から良い香りをさせて帰途につき、明日には爪先を彩る予定を入れている。そういう自分を鏡越しに見て、悪くないじゃん、と思う。だけどそれは、私であって私ではない。私のなりたい私ではない。それが、社会がよしとする女の姿に自分を押し込める行為であることを、私は痛いほどよくわかっている。私はそうして生きながら、自分を少しずつ殺している。

「正しい」女の姿を演じていると、安心する。少しは自分が社会不適合であることを思い知らなくてすむから。だけどその実、その正しさに雁字搦めになって息ができなくて喘いでいる自分を無視している。

そのうち自分がどうなりたいのかもわからなくなってしまって、自分を殺してしまったことにも気づかないまま私は女に溶け込む。いやだ。いやなのに、こうするしか、私は生きていく術を知らない。

どうして生きていかなければならないんだろう。会社の帰り道、線路を見つめながら思う。こんな生き方はしたくなかった。