180923

8時に起床、しばらく硬いベッドで微睡む。共用スペースで朝食をとっていたらしい家族連れの声が賑やかだったおかげで、そこまで深い二度寝をすることはなかった。安宿の壁は薄いのだ。9時過ぎに毛布を抜け出し、共用スペースでテイクフリーになっているトーストとシリアルを少し食べた。昨日のうちになんとなくインチョンのチャイナタウンで炸醤麺を食べようという決心はしていたので、朝食は適当でも良かった。部屋に戻ってまた少しうたた寝をして、のんびりインチョンまでのルートを調べていたら、なんとインチョン駅から仁川国際空港まで1時間かかることに気が付く。この時点で午前10時半すぎ。ソウル市内からインチョンまでも1時間以上かかるので、食事の時間を考えると、16時前の飛行機に間に合わせるのはそれなりにぎりぎりである。一瞬諦めて仁寺洞のあたりを散策するとか、お気に入りの広蔵市場でも行こうかと逡巡したものの、なんとなくそれも癪な気がした。と、いうわけで準備の苦手な私にしては手早く荷物をまとめてチェックアウト、行動開始。

忠武路から4号線でソウル駅、乗り換えて1号線。日本と勝手が似ているのもあるけど、だいぶ韓国の電車に乗るのも慣れてきたな、と思う。この駅はこの路線、とか、何色はどの路線、とか。路線図とひたすらにらめっこしてきたから、地理もけっこうわかるようになっていたりなんかして、少し嬉しい。江南の西側はノリャンジンまでしか行ったことがなかったので、また少し行動範囲が広がったことにうわつきながら電車に揺られる。1号線は途中で二股に分かれていて、乗っていた電車はインチョンじゃない方向に行くものだったので途中で乗り換え。乗り換え駅の風景がなんとなく好きだった。一眼レフで撮ることに誇りめいたものを感じていた時期もあったけど、携帯を画質の良い機種にしてから、素直に綺麗だなあ、良いなあと思ったものを撮るようになった気がする。今回は電車の中から漢江を撮るの忘れちゃったな。好きなんだけど。

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 インチョンに着いたのは12時半前。ソウルを出た時は涼しいと感じたけれど、電車を降りたら空気はぬるかった。なんだかソウル市内とは空気の匂いが違う。もっと柔らかい。駅を出たら、もう目の前に中華街の門が存在感を放っている。横浜の中華街と似ている。日差しが強くて日向は暑かったので、着ていたGジャンは脱いだ。秋夕の時期だからお店は閉まってるかもなあ、まあそれなら町並みだけでもひやかして帰ろうと構えていたけれど、観光地だからかそれなりに賑やかな雰囲気でこれは行けそうだぞ、とわくわくしながら門をくぐる。
 

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まっすぐ坂を登っていくと、つきあたりに4階建ての立派なお店。インターネットでは秋夕当日は休業日とあったけど、短い列が出来ているのでどうやら営業しているらしいと知れた。ラッキー。案内していたお店のおじさんにひとりです、と告げて列に並ぶと、そう経たないうちにもうひとりのおじさん(店内と空き状況のやりとりなんかをしているっぽかった)に何やら話しかけられる。一回で聴き取れずについ私が英語で謝ると、おじさんにちょっと困った顔をさせてしまい、ふたりして困り顔で見つめ合ってしまった。幸いそこで列案内のおじさんが「日本人ですか?」と助け舟を出してくれて、「一緒、OK?」。どうやら他の人と相席でもいいか、と尋ねてくれたみたいだ。大丈夫です、と伝えると、4階に行ってねとエレベータに載せられる。ドアが閉まる直前まで、指を4本だして「ふぉーす!ふぉーす!」と見送ってくれたおじさん達、大好きになってしまった。

メニューをぱらぱらとめくってみると、いかにもオーソドックスな中華料理レストランといったラインナップなのだけど、価格帯がやや高い印象。観光地価格というのもあるのかもしれないけど、そこそこ良いお店のようだ。調べた時はそんなに高いところだと思わなかったけど、もしやゼロをひとつ見間違えたりしたかしらとヒヤヒヤしながらページをめくっていくと、「炸醤麺 5000W」の文字が見えたのでほっと胸を撫で下ろした。もともとそれを食べるつもりで来たので、ほかは特に考えず注文。韓国で広く愛される炸醤麺、このお店が発祥らしい。點心をひとつくらい頼もうかなとも思ったけれど、お腹がいっぱいになりそうな気がしたのでやめた。

運ばれてきた炸醤麺は、色が濃くて少し驚いた。味が濃い食べ物が苦手なので、一瞬どうかなと心配するも杞憂に終わる。見た目に反して全然しつこくないのだ。豚肉と玉葱や葱、キャベツなんかがくたくたに柔らかくなったソースは優しい甘さで、すごく美味しかった。 

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私が食べた炸醤麺は一番安いもので、ほかにも何種類かあったらしいというのは、後から知った。しかも、もっと具沢山らしい。そっちにしておけばよかった、と幾ばくかの後悔をしている。きっと、注文の時は空腹すぎてろくにメニューを読んでいなかったのだろう。惜しいことをしたけれど、でも、美味しかったから良いことにする。炸醤麺以外の料理も美味しそうだったから、また食べに来たい。

お店を出て13時をやや回ったところ。まだ余裕がある気がして、もう少し中華街の奥まで散策しようとしたものの、しばらくしてその思い込みが盛大な誤りであることに気が付く。インチョンから空港までは乗り継ぎを含めるとなんやかんやで1時間半近くかかるのだ。というわけで、屋台のヤンコチに後ろ髪を惹かれつつ、泣く泣く引き返して駅に戻った。乗り換えを検索すると、空港につくのは14時49分。フライトは15時55分。国際線は2時間前行動、と聞いたことがあるのだけど、なかなかにギリギリである。とはいえ預ける荷物もないし、チェックインはオンラインで済ませてしまえばいいので、空港でやることといえばwifiの返却と、保安検査と出国審査だけだから行けるだろうと踏んだ。目論見通り、出発20分前には搭乗口に到着できて、1時間あればなんとかなるものなんだなあとまた余計な知恵を手にしてしまった。この調子でいると、いつか痛い目を見るに違いない。

初めて印刷されたものではなく、スマホの画面に表示させるだけのモバイルチケットで搭乗したのだけど、これは便利だとしみじみ思った。チェックインなんて電車に乗っている間の数分で出来てしまうし、1、2泊程度の旅行ならリュックひとつで充分事足りる私にとってはとても重宝する仕組みなので、これからどんどん使っていくつもり。

機内食はやっぱり美味しいのか不味いのかよくわからなかった。食材がなんだかは見ればわかるのに、それでも「何を食べさせられているのだろう……」と妙な気持ちになるのが毎回楽しくて、つい完食してしまう。飛行機の中でないと食べられない、という特別感が良い調味料なのだろう、たぶん。

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飛行機の中ではずっと、昨日のミュージカルの感想を綴っていた。終わる気配はない。夕暮れ時の着陸だったので、雲の上から見る夕焼けとか、雲の隙間から見える街の灯りとかが綺麗で、結構長いこと外を眺めていた。飛行機は好きだ。また再来週も渡航予定なので特に感傷を覚えるつもりはなかったのだけど、陽が落ちてから着陸した滑走路の色とりどりの誘導灯を見ていたら、ふっとまだ死にたくないな、と思った。楽しかったな。