9月8日(日)怠惰

7時半、恋人のアラームで眠りを妨げられる。あたりまえのことみたいに触れ合って、私がまだ睡魔に絡め取られているあいだに恋人はさっさと布団を抜け出して朝食を作り始めていた。色温度の低い朝の光、東向きの部屋がこんなにいいものだとは思わなかった。フレンチトースト、それとコーヒー豆を切らしていたので久しぶりに紅茶。離れがたいのを振り切って、10時過ぎに見送る。追いかけられたら好きじゃなくなるのが今までだったのに、こんなに真っ直ぐな好意をぶつけられても逃げ出したくならないのは不思議。俺が特別なのかな、と恋人は上機嫌を隠さない。犬みたいなひとだ。

そのあとは何にもする気になれず、朝顔についていた青虫を捕獲して、背脈管の脈動をじいっと眺めたりしていた。虫に詳しい友人に写真を送ったら、すぐに返事がきて、ヨモギエダシャクではないかとのことだった。可愛いので育てることにする。ネットには広食性でなんでも食べると書いてあったのでキャベツを与えてみたが、目をくれる様子がない。仕方がないので朝顔の葉を入れたらすごい勢いで食っていた。耳を寄せると、しゃくしゃくと小気味の良い音がした。食害になるわけだな、と納得した。しばらくするとぱたりと動かなくなった。次に見た時には場所が変わっていて、朝顔の葉の面積はまた小さくなっていた。

日が暮れてからようやく動く気になって、どうにか皿は洗ったけど、洗濯物を畳むところまでは気持ちが持たなかった。料理もしたかったのに、全然そんな気分じゃなくて結局カップ麺に逃げた。そのうち料理する気になるかもしれないからと冷凍している食材たち、日の目を見ることはもうないのかもしれないと冷凍庫を開けるたびに罪悪感をおぼえる。いっそひとおもいに捨ててしまったほうがいいのに、と理性がいう。去年は毎日作っていたのに、いちど糸が切れたらあっけないものだ。

シャワーも億劫で、23時をすぎてようやく仕事に手を付けた。今はすごく仕事が楽しいけど、それと気力は別の問題だ。どうせ翌日は台風で出社するつもりもなかったから、集中の途切れた状態で1時くらいまでパワーポイントをいじくりまわしていた。いつもはベランダに置いている朝顔を部屋に取り込んでおいたから、こんな時間まで電気の下にいると開花時間が狂ってしまうな、と思いながら、雨の音が強くなりはじめた頃にようやく眠りについた。