9月9日(月)菊と夕焼け

8時半に起きる。いつもならとっくに起きてなくちゃならない時間だけど、はなから会社に行くつもりはなかったから問題はない。朝食をとる習慣はないが、時間にも気持ちにも余裕があったので、ハムとチーズをのせたトーストを作った。それと紅茶。夏まっさかりの時は温かい飲み物なんて考えたくもなかったけど、飲もうかなという気になるあたり、着実に秋は近づいてきているのだなと思う。それから洗濯機をまわした。仕事の合間に洗濯物を干せたりなんかするから、家で仕事するのはけっこう好きだ。平日にすこしでも片付けておくと休日がちょっぴり楽になる。9時からはオンライン会議が入っていたけれど、聞いていればいい内容だったから、とくに発言もせずにトーストを頬張っていた。あとできいたら、上司は家の玄関で靴を磨きながら聞いていたという。仕事なんて、そんなもんでもけっこうちゃんとまわるのだ。

昼過ぎまではそれなりに集中して仕事をした。午後に取引先との会議がひとつ。シャワーをかるく浴びて家を出た。朝感じとった秋の気配はどこへやら、しっかりと夏の陽射しに睨めつけられて閉口した。葉っぱがそこらじゅうに散らばっていたのと、どこからやってきたのかもわからない大きなコンクリートの塊が落ちていて、夜の嵐の匂いが色濃く残っていた。でもすれ違うひとびとの表情はとくに変わりなく見えて、景色だけがいつもより荒れているのが奇妙だった。

インスタグラムに倒れた木の画像が流れてきたりして、こういうのもインスタの素材になっちゃうのか、と思った。あれは日常をおもしろく見せるためのツールだと思っていて、誰かにとっては台風で倒れた木がおもしろいの範疇に入るのだと思うと、妙な気分だった。そうやって日常に非日常を見出すたびに、両者の境界線が曖昧になっていく気がする。そのうちぜんぶおもしろくなくなっちゃいそうな気がして、ちょっと気持ち悪い。日常を日常のままおもしろがっていたいから、文章を書くなんて面倒なことをやめたくないのかもしれない。

取引先との会議のあとは、まっすぐ自宅の方に戻った。でも家に帰ったら布団に引き寄せられてしまいそうな予感がしたから、カフェですこし仕事をした。作業が一段落して、帰ろうか迷っているところに、退勤したらしい恋人から燃えるような空の写真が送られてきた。それで慌てて店を飛び出したのだけど、きれいに見えそうな場所を探してうろうろしているうちに色は褪せてしまった。東京はどこもかしこも空が狭い。すっかり紺色に飲まれてしまったのを見届けてから、ドラッグストアで切らしかけている生活用品をいくつか買い足した。店頭で「生理用品は10月から税率10%です!お早めにお買い求めください!」と陽気に謳う創英角ポップがどうしようもなく腹立たしかった。ふざけんじゃねえよ、と内心で毒づきながらそれも買った。つくづく馬鹿にされているなあと思う。こういう感情で満たされているのは好きじゃないので、花屋に寄って菊を一輪買ってから帰った。家を出るときには葉や枝が散乱していたアパートの階段はすっかりきれいになっていた。

米を炊いて、洗濯物を取り込んで、シャワーを浴びてもまだ9時前だった。珍しく料理をする気になった。鶏もも肉を酒と柚子胡椒に漬け込んで焼く。小口切りにした青葱をざくざくいれた卵焼きを副菜にする。けっこう前から冷凍してあるブロッコリーも使ってしまおうと思って、コンソメキューブを溶かしただけのスープの具にした。手の込んだものでなくとも、案外まともな食事らしくなるものである。一汁三菜となると、作り置きをしておかないことには難しいが、一汁二菜くらいならばけっこうなんとかなるもんだったな、と思い出した。部屋をすこし片付けて、1時くらいに就寝。