9月19日(木)青の似合うひと

9時に目が覚める。午前中の出社は諦めて、昨日作ったポトフの残りを食べながらちょっと仕事をする。11時に家を出た。気温も湿度も日差しも空の色も風も、何もかもが完璧で、こんな日に仕事をしなきゃいけないだなんて、どうかしていると思った。

恋人が昼食を食べようというので、会社の近くで待ち合わせた。電車の中でセブンティーンの新しいアルバムを聴いてしまったところでほとんど放心状態だったので、会ってからしばらくはろくな返答もできず、ちょっと申し訳ないことをしてしまった。恋人はちょっぴり拗ねつつ、まだ寝てるの?と私をからかった。

18時前に会社を出て、恋人のひみつ基地へ。都会の真ん中、車の往来が激しい大通りをひとつ裏に入っただけで、世界が切り替わったみたいに虫の音しか聞こえなくなる。恋人が東京でいちばん好きだという場所、道連れには秋味の缶ビールとみたらし団子、それと栗どら焼き。団子とどら焼きは、私を待っている間に買ったのだという。ずっと私と反対側で袋を隠し持っていたらしいのだけど、全然気付かなかった。そう言うと、恋人はしてやったりとばかりにいたずらっぽい顔で喜んでいた。可愛いひと。私が歓声をあげて袋の中を覗きこんでいるうちに、がさごそと音に誘われたのか、野良猫が近寄ってきていた。顔をあげたら3対の瞳が煌々とこちらを照らしており、思わずウワッと声をあげてしまった。ビールと団子とどら焼きと秋風、完璧な贅沢だった。

腹の虫が訴えかけてきたところで、ひと駅分ほど歩いて、恋人がおすすめだという焼き鳥屋で食事をした。店内は賑わっていて、正面に座った相手と会話するにも声を張り上げなければいけないくらいだった。火加減のちょうどいいレバーの串が美味しかった。

この日の恋人が着ていた、藍をほんのり薄めたみたいなリネン生地のジャケットが好きだ。きみはいつも私に青が似合うと褒めるけど、きみも青の似合う人だよね、と私が言うと喜んでいた。袖口から見慣れないカフリンクスが覗いていた。きみが気付いてくれるひとだから、しばらく使っていなかった古いものを引っ張り出して磨いてきたのだ、と照れる様子が可愛らしかった。四角形の中心に白い石がうめられたシンプルなデザインで、このひとらしいなと思った。先日買った誕生日祝が同じ位置に陣取ることを考えて、気付かれないようにこっそり口元を緩めた。きっと似合う。