2022/1/5

9時にアラームで目をさます。前の晩、美術館に行くか、終日家で過ごすかで悩んでいたが、起きぬけに読んだ『メロンの味』という漫画に気持ちをぜんぶ持っていかれて、外に出る選択肢はそうそうに消えた。けっきょく、正午ちかくまでふとんにもぐったまま『しまなみ誰そ彼』と『僕のジョバンニ』を全巻読みとおした。

感想はまたあらためて書きたいけれど、とくに『しまなみ誰そ彼』は感じ入るところが多くて、何度かこらえきれずに嗚咽していた。感じ入る、というのは曖昧な言い方だけれど、共感とも救いとも違う感情だ。どちらかといえば、自分のなかで触れずにいたかった部分をつきつけられたようなたぐいの苦しさ。こういう作品は今苦しいひとの救いになってくれるものだと思うし、もっともっと読まれるべきで、そして、そのうち新しい作品ともてはやされることすらなくなるような世界を私は望んでいる。だけどそれは今じゃない。過渡期の今は、マイノリティはたしかにここに存在するんだと描かれること、透明化されないことがまず大事で……わかっている、性的指向性自認と性表現のあらゆるありかたを、すべて網羅してひとつの作品に登場させるなんてのはむりだ。そもそも網羅することができない、そんなのは人間の数と同じだけあるのだから。それでも、ゲイとレズビアンとトランス男性とトランスヴェスタイトが出てくる、マイノリティを主役におく作品で、バイセクシャルはやっぱり透明化されるんだなと、そう思ってしまった。レズビアン向けの出会い系掲示板で何度も目にした「完ビさんのみ」という文言が頭をよぎる。バイセクシャルはマイノリティじゃないでしょ、という視線。異性愛者に、マジョリティになれる存在としてのバイセクシャル。「ほんとうの」マイノリティが経験している苦しさを味わっていないでしょう、だなんて、面と向かって誰かに言われたことがあるわけじゃないけれど、そういう空気を感じたことのあるバイのひとは、私だけじゃないはずだ。悲しいのは、私自身がそれにかえす言葉を持たないことだ。たしかに私は「じゅうぶんな」苦しみを味わってきていないような気がする。女として女も好きになることを、親にも友人にも隠したことはないし、それで嫌な思いをしたこともない。中学生のころの幼稚な恋愛をのぞけば、同性との交際経験がほとんどなく、事実上異性愛者としての生活を送ってきた私に、マイノリティとして声を上げる資格があるのだろうか、という後ろめたさはずっとある。たとえ交際相手が異性でも、たとえ誰とも交際していなくとも、私が同性を好きになることは嘘ではないし、そもそも誰かに証明したりみとめてもらったりしないといけないようなものでもないはずなのに。何を経験していたらほんとうの苦しみを味わったことになるのかなんて、誰にも決められないものだって、そんなこと、頭でとっくにわかっているのに。疎外感なんかおぼえたりして、でもそうやって被害者意識をあじわって「マイノリティ」の仲間にいれてもらいたいだけのような気もして、自分の傲慢さに胸の奥がじくじくして、それが苦しくて泣いていた。

起きて昼食をとってからも、ソファのうえでひたすらIDOLiSH7の4部を読みすすめていた。途中眠気にさそわれてうたた寝したとはいえ、読み終える頃には暗くなっていた。リビングの窓が西に面しているので、夕焼けが存分に楽しめるところも、この家の好きなところのひとつだ。今の季節は空がうつくしくて良い。何かや誰かを好きでいつづけるということは、状態ではなく意志なんだよなあというのをあらためて思った。5部も配信されているぶんは追いついた。

夕食はめんどうになって、昨日の残りでかんたんにすませた。長風呂をして、皿を洗って、洗濯物を片付けて、資格の勉強をちょっとした。勉強をはじめたのが23時で、思いのほか楽しくなってしまってもっと進めたかったけれど、眠れなくなりそうだったので、物足りなさをおぼえつつ30分ほどで切り上げた。必要に迫られないとやらない性格のせいで、勤めはじめて以降ろくに資格も取得していないていたらくだけど、試験勉強という行為には飢えていたのかもしれない。

アニメ『オリエント』の放送がはじまったので、初回を観た。斉藤壮馬さんが出演しているから、というのが鑑賞の動機だ。中の人の存在を意識してしまいすぎると、物語上のキャラクターの人格に干渉してしまうのだけど、私は中の人である斉藤壮馬さんという人間に惚れ込んでしまったのである。彼を好きになったことを自覚して以降、そこにどう折り合いをつけるかというのを考えあぐねていたので、声優ファンである私と、物語を享受する私とを切り離す訓練として観てみよう、というよこしまな思惑があってのことだったのだけど、王道の少年漫画らしい展開にすなおにわくわくしてしまった。観ているあいだはもっといろいろ感じたことがあったのに、こうして文章にしていると指先からこぼれおちていくのがもどかしい。でも、作品に集中することを優先しようと決めたので、観ているそばからインターネットに書き散らすのは今年はやめる。おざなりに鑑賞したくない。おろそかにしたくない。来週も楽しみ。