2022/3/14

携帯はちゃんと書斎に置いて寝たのに、悪夢のせいで眠りは浅かった。明け方に薄く意識が浮上した記憶がある。もっともそのおかげで七時半には起きることができた。予報で今日は暑くなるのだと知って、麦茶を作りながら、夜はハイボールを飲もう、と思った。

陽射しにさそわれて昼食を外でとることにした。初めて入る蕎麦屋で、小さい山菜蕎麦がついたカツ丼のセットを頼んだ。食べはじめてから、朝方に胃の不調を感じたことを思い出したけど、空腹は健在だったので完食。にぎやかな商店街に面した店だが、まるで空間が切り離されたかのように、店内からは外の喧騒が遠く感じた。近くにいた二人連れのぼそぼそとした話し声のほかには、自分や他の客の食器の音と蕎麦をすする音がするばかりで不思議な静けさに満ちていた。そのひんやりとした空気と、懐かしさを感じる内装がすっかり気に入ったので、また訪れたい。

午後六時前に会議を終えた。話し終えたときにはうっすら汗ばんでいた。空はちょうど色がうつろってゆく時間帯で、窓からやわらかな夕方の空気が迷い込んできて、ふと煙草を吸いたくなった。飲み会の付き合い以外では月に一回か二回吸うかどうかという浅瀬の愛好でしかないけれど、煙草は好きだ。ベランダに出て、スピーカーを持ち出して、音楽を流しながら眼下を行き交うひとびとをしばらく眺めていた。花粉の気配で体じゅうむずむずしていることを除けば、春を通り越して夏の空気だ。初夏の夕方の空気は容赦なく情緒を学生時代に引きずってゆく。

買い物に行って、夕食を作って、朝心に決めておいたとおりにハイボールを飲んで、今はゆるやかな酩酊に身を任せている。好きな声優が好きだというので、シューゲイザーとかドリーム・ポップとよばれるジャンルの音楽をこのところ聞きかじっている。ロックにはあまりなじみがないので、はじめこそ楽しみ方がわからず戸惑ったけれど、だんだんと気持ちよさがわかるようになってきた気がする。自分の輪郭線がぼんやりと滲んでいって、溶け出すような恍惚感。本を読む時に聞いているのも好きだが、酒を飲んで聴くときっと気持ちいいだろう、と考えたのは外れていなかった。ふわふわして最高。なにもかも麻痺してゆく。もっと前後不覚になりたい気がするけどまだ月曜日だ。