2023/2/23

祝日だと思ったら勤務先のカレンダーは休みになっていなかった。天皇制に反対する立場としてはとりたてて祝うつもりもないし(そんなこと言ったら大概の祝日はそうだけど)、まあいいかと思いながら適当に労働をこなした。

夕方、髪を染めに行く。3時間半ほど滞在して、ジョン・スタインベック『ハツカネズミと人間』を読み終える。舞台化の似合いそうな小説だと思ったら、案の定作者もそれを意識して書いたものらしく、あとがきでは戯曲的小説とも評されていた。そういう嗅覚が自分の中に培われていることを嬉しく思う。人種差別や障害者差別、家父長制、そういう理不尽の中で生きる人間たちの尊厳の物語だった。光がそこにあることをたしかに見せつつも、後味にざらっとしたものを残していく終わり方がすごく好きだった。物事の捉え方、そこにあるものをあるがままにという姿勢は、先日連れと観た『スリー・ビルボード』を彷彿とさせるものもあった。連れはかの映画を「純文学的映画、それでいて文学では同じことはできず映画でしかできないことをやっている」と評していたが、この小説もそれと同じような、他の手法への応用可能性を感じさせる(それでいてきっと小説であることの意味もある)ものだったと思う。

舞台で一度観てみたいと思うし、日本でも過去に上演されているみたいだけど、虐げられてきた人を描く物語であるだけに感覚が合わない演出・脚本だったら目も当てられないだろうと思う。原作の設定をそのままつかうときに、クルックスの役をやるのに平然とブラックフェイスをやるようなプロダクションもありそうで、なんとなく深く検索する気になれない……というか、現に2018年に上演したものは写真を見るかぎりやっているように見えて脱力した。現代日本の物語に置き換えても成立するだろうし、それが観てみたいなと思う(これも二次創作の感覚だと思うが、ちょっと脚本を書いてみたいとも思ってしまった)。かなり好きだったので『怒りの葡萄』『エデンの東』も読んでみたい。あとは好きな声優がいつだか推していた柴田勝家『アメリカン・ブッダ』を半分ほど読み進めた。おもしろいけど、おもしろいだけだな、というのが今のところの印象。

美容院のあとの恒例になりつつあるのだが、髪をととのえた状態でまっすぐ帰宅するのも癪なので、映画を観に行った。『THE FIRST SLAM DUNK』と『BLUE GIANT』で迷ったが、来週会う約束をしている友人との話題が増えるのが嬉しいなと思って前者を選んだ。周囲が熱を上げているのは見ていて、ずっと気になってはいたものの原作をまったく知らない身ゆえのためらいとか、ほかの作品に現を抜かしていたりしたこともあったりとかでタイミングを逃していた。結果、想像以上に良かった。まさしく映画館で鑑賞する意味のある映画だった。音響自慢の劇場で観ていることもあるのだが、それにしても音の魅せ方が抜群にうますぎる。話の内容もさることながら、そういう音や色づかいの緩急に琴線をびりびりと揺らされて、2時間ずっと半泣きだったし、呼吸もろくにできやしなかった。あの長い、長い静寂のことが忘れられない。客席からもなにひとつ物音がしなかった(公開からしばらく経っているうえにレイトショーという状況で、わざわざ見に来る人間しかいない空間だったのが良かったかも)。印象に残っている場面はいくつもあるけれど、なにより心に焼き付いたのは、沖縄にもどったリョータが、かつてソータと1on1をやっていたコートをおとずれるシーンで、そのコートの向こう側に海が見えたときに、自分が大学時代に自転車で沖縄を旅したときに見た海の色と空気の匂いがばっとよみがえって、「私はこの景色を知っている!」と思ったことだった。試合中もそうだけど、そういう臨場感に満ちた映画だった。メインのキャラクターをさしおいて木暮くんに惹かれるあたりが自分らしいなと思ったし、友人にそれを言ったら『ハイキュー!!』で菅原さんを好きならそうだろうと納得されて、わかられている…!と喜んでいた。原作は菅原ポイントが高いですよと勧められてまんまと読みたくなっている。原作を知る人にはそれなりの楽しみ方があるのだろうし、キャラクターの関係や文脈を知らない分とりこぼしているものももちろんあるだろうが、ほぼまっさらな状態で観られたことは幸運だった気がしている。「浴びた」と形容するのが正しい。う~ん、もう一回、観に行くか……?

ようやくモリミュが体から抜けてきて、ほかの物語を味わえる余裕が出てきた気がする。調子がいい。