BTS LOVE YOURSELF参戦記

友達に誘ってもらって、BTSのコンサートに行った。彼らのことを私はあまりよく知らない。好きな曲もたくさんあるのだけど、近づきすぎてしまうときっとしんどいだろうなと思っているから、意図的に距離を置いている。とくに最近は、ちらほらと流れてくるものにも気持ちを毒されてしまいそうで、彼らにまつわることはできる限り目に入れないようにしていた。いろんな視線に晒されていることは知っているし、その諸々に何も思わないわけじゃないけれど、そういうのに言及することが馬鹿馬鹿しいと思っているから、言わない。ただ、彼らがどうこうじゃなくて、彼らの周りに簡単に転がっている、悪意に満ちた言葉に傷つきたくなかった。

正直、この日も仕事のことで頭が埋め尽くされていて、全然楽しみにするとかそんな余裕もなくて、仕事が終わる気配もなくて、なんなら直前まで行きたいと思えなかった。行ったら楽しめることはわかっていたけれど、そんな心持ちでステージを観に行くことは無礼だと思っていたし、私より行きたい人がたくさんいることも知っていたから、余計に気が引けた。だけどやっぱり、あたりまえのように行ってよかったと思っている。

EXO以来、2年ぶりの東京ドーム。熱烈に推しているわけではないぶん、ひとつひとつのステージを穏やかな気持ちで観ることができた。そのせいか、印象に残っているシーンがたくさんある。綺麗だった。すごく美しいコンサートだった。5万人近くが収容されるあの空間でも、いちばん遠い2階の後ろの方だった。チケットがとれただけでも奇跡のようなことだと思っていたけれど、誘ってくれた友人は私にもっと近くで彼らのパフォーマンスを見てほしかったのだとがっかりしていた。でも、私は天井席が嫌いではない。暗くなった会場を満たすペンライトの光がいちばんよく見渡せる特等席だと思う。ステージの照明演出もよく見える。アリーナ席にいればありありと感じられたのであろう熱気が、私達のところに届くまでに薄れてしまうのはすこし寂しいけれど、でも、天井席には天井席の良さがある。近いことだけがコンサートの楽しみ方じゃない、全然。これは前にセブンティーンのコンサートのときにも書いたことだけど、ペンライトの海の中心に光をはなつ彼らの姿があるのは、本当に美しい光景だと思う。彼らはいつも、ステージから見たその海の美しさについて嬉しそうに語るし、私が彼らの見ている景色を見ることは一生ないけれど、そのかわり、私が目にするあの光景を彼らが目にすることもない。もったいないなと思う。見せてあげたい。

コンサートとか、舞台とか、エンターテインメントの場が好きだ。そういう場を満たす空気が好きだ。だって、儚いから。永遠に続かないから。

アイドルなんて追いかけたってなんにもならない、という人がいる。そうだ、なんにもならない。歌とかダンスとか、ペンライトの煌めきとか大掛かりな舞台装置とか、べつにこの世界になくたっていいものだ。ステージってそういうものだ。この世界になくても良くて、すぐに消えてしまうものに、私たちは魅せられている。永遠じゃないことを悲しみながら、それでも永遠じゃないからこそ、その瞬間を愛している、そうでしょう。公演時間なんて、たったの3時間だ。生きている時間のうちの何%にもならない、たった3時間のために、必死で生きる人々がいる。見る人も、ステージのうえに立つ人も、ステージを作る人も、終わるためだけに存在する瞬間に全霊を傾ける。そうしてできあがるものが、美しくないわけないんだ。必要性とか生産性とか、効率とか、役立ちとか便利とか、そういう言葉ばかりもてはやされる息苦しい世界で、バランスをとって生きるためにぶつけられたエネルギーが放つ光の眩しさ鮮烈さ美しさは凄まじい。そういう場所に、過去も未来もない。あるのは眩いばかりの今だけ。それが生きてるってことだと思う。コンサートにいると、生きてるなあと思う。生きてることを知りたくてコンサートに行ってるような気もする。

彼らはきらきらしていた。スパンコールがたくさんついた絢爛な衣装に身を包んで、照明に反射した汗の雫も光っていて、そこには闇なんかないみたいにきらきらとしていた。何万人もの人間からいちどに視線を向けられるって、どんな感じだろうか。髪をかきあげるだけで、目を細めるだけで、下唇を噛むだけで、そこに生きて、存在しているというだけで、熱っぽい視線を向けられることは、息苦しくはないだろうか。恋をすることもできず、不特定多数の他人に愛されることは幸せだろうか。ファンは足枷になっていないだろうか。そして、それよりもずっと鋭く、彼らを傷つけようと明確な悪意を持った視線や言葉を向けられることは。そんなことを考えながら、ずっと光のあたるところにいる彼らを眺めていた。

Love yourself. その言葉の意味を、僕たちもまだ探しています。最後のMCでナムジュンはそう言った。愛することは難しい。自分も他者も。だけど、幸せでいてほしいと思った。いろんなことを全部抜きにして、どうか、ひとりの人間として幸せであってほしいと思った。彼らが自分自身を愛する方法の答えがステージのうえにあるんだとしたら、それは嬉しいことだなと思う。そうだったらいい。Love yourself、愛せるかな。愛したいね。