10月4日(金)さつま芋

カーテンを開けるなり洪水のように流れ込んでくる朝の陽光も嫌いじゃないけれど、部屋の明度をぬるりと上げるだけの、雲に隔たれた光のほうが好きだ。ひさしぶりのしっかりした雨に、思わずにっこりしてしまった。良い天気だ。

シンクに置きっぱなしにしていた皿を洗って、コーヒーを淹れた。ヨーグルトを食べた。一本遅らせてもぎりぎり会議には間に合う時間だったけれど、諦めずに駅まで走ってひとつ早い電車に乗れた。凄いじゃん、私。ちゃんと生きようとしてる。死にたくて、死んでほしくて、望まない感情にかき乱されて、それでもちゃんと歩こうとしている。えらい。

会社の最寄り駅で地下鉄を降りて地上に上がったときには、もうすっかり目の覚めるような青空だった。風に揺られた欅の葉がざあと音を立てて豪快にと水滴を滴らせて、それが日差しに煌めいてそれはそれは美しかった。雨上がりは良いものだ。

午前中に会議がふたつ、午後にもふたつ。きちんと意味のある会議は好きだ。ふわっとしていた物事がかっちりあるべき場所に収められていく感じ。

知人が恋人を紹介するというので食事の約束をしていたが、親しくもないひとと談笑できるような余裕がある気分ではなかったので適当な言い訳をつけて断ってしまった。こういうことをカジュアルにしてしまうのはよくないのだろうと思うが、特段やめるつもりもない。それで恋人と食事をした。以前から連れていきたいと言われていた薬膳火鍋の店で、とてもひとことでは形容できない複雑な味がした。ひとくち食べるごとに美味しいと言わずにはいられず、恋人は目を細めて私を見ていた。きのこや野菜が溢れんばかりに皿に盛られていて幸せなことこのうえなかったが、なかでも好物のさつま芋を私があまりにも幸せそうに食べるものだから、「君が食べたほうが価値がありそうだ」と言いながら恋人は自分のさつま芋も半分くれた。食後の愛玉子まであますところなく美味しかったし、恋人と話しながら終始けらけらと笑っていた。太陽みたいなひとだ。