1月5日(日)柚子

9時のアラームで目を覚まし、しばらく微睡んで10時に布団を抜け出す。ほどなくしてインターホンが鳴る。恋人である。実家でついたというよもぎ餅を持ってきてくれて、私がのろのろと身支度を整えるあいだに磯辺焼きになっていた。餅はトースターで焼くものだと思っていたので、フライパンで焦がし醤油を絡める様に私が目を丸くすると、恋人はわかってないなあと笑っていた。たしかに市販のものよりもずっと柔らかくて、よもぎの香りと、醤油と焼き海苔の香ばしさがたまらなかった。

昼前に家を出て、恋人の車で郊外のショッピングモールに向かった。きもちよく晴れた、良い空だった。空港が近いので、空には雲よりも飛行機のほうが多く浮かんでいた。海のうえに伸びる道はまっすぐで、すこし上り坂になっているがために先が見えなくなっていて、そのまま走ってゆくと空に飛び込んでいけそうだった。滑走路みたいだねと恋人と話した。13時過ぎにモールに到着。夏から秋にかけて長野に何度か行ったのに比べたら、1時間半のドライブはすこし物足りない。

館内マップで行きたい店の目星をつけようとするも、膨大なショップ数に早々に挫折して、とりあえず歩きだそうということになる。それぞれ気になった店があったら申告する方式である。途中、昼食やカフェでの休憩をはさみつつ、ぐるりとモールを一周し終えた頃にはすっかり日が落ちていた。恋人の戦利品は濃い青のハイネックのセーター(私がすっかり気に入って熱烈に推した、だって恋人は青がたいへん似合うのだ)と、仕事用のジャケットを2着。コートはすごく気に入ったのがあったけれど、さんざん悩んだ挙げ句買わないことにしたらしかった。私のほうは辛子色のセーターに白のスカート、ボトムスを2着、それと鞄。服に限った話でもないが、とにかく趣味が合うものだから恋人との買い物は楽しくてたまらない。

もともとふだんの生活で服を買うことはめったにしないので、年間の予算だけ決めておいて、こういうときにまとめて買ってしまうとかなり楽である。このことに気が付いたのは去年だが、今年もこの手法を採用してみて、どうやら性に合っているらしいという確信を得た感じがある。これさえしておけば、必要に迫られないかぎり服は買わなくても良いというのは、日常における選択の負荷軽減に一役買っている気がする。日々何を着るか、何を食べるかひとつとっても考えるのがしんどいので、こういう自分の甘やかし方をもっと身に着けてゆけると良いのかもしれない。それもこれも、連れ出してくれる恋人いてこそなのだけど。

夕飯は、恋人が餅を入れた力うどんを作ってくれた。出汁には、餅と一緒に持ってきてくれた柚子を贅沢にまるまるひとつ使ってすりおろした皮が入っていて、口に含むと柑橘の爽やかな香りが鼻に抜けた。あっという間に体がぽかぽかと熱を発しはじめるようだった。皮を削がれてあられもない姿になってしまった柚子は、輪切りにして、白湯のポットに入れた。これが思いのほかさっぱりとした味で美味しい。柚子というといつも皮ばかり使われて可哀想に思っていたが、こういう楽しみ方もあるんだなというのは発見だった。

恋人が帰ってからは、筋トレをして、シャワーを浴びて、時間をかけて肌を保湿した。年末に仕事が立て込んでからは怠りがちだったけれど、こうして自分の体にじっくり向き合う時間はけっこう好きだ。メンテナンスにきちんと手間をかけられる生活を営みたい、2020年である。

明日はとうとう仕事だ。すこし楽しみにしている気持ちもあるけれど、休日リズムに作り替えられてしまった体をもとに戻せるのか、いささか不安である。良い仕事初めになりますよう。