悪夢を見ていたいんだ(はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選」)

はてなブログ10周年特別お題で「好きな◯◯10選」というのがあったので書いてみる。しぼりきれなくて11選になってしまったけれど、愛するものについて書くのは楽しい。

ナイトメア、というバンドを好きになったのは十四かそこらのことだ。当時交際していた年上の彼女に教えてもらって、みるみるうちに傾倒した。途中離れていた時期もあるが、かれこれ十四、五年近く好きで、来月二十八になるから、生きている時間の半分は彼らの音楽とともにあったことになる。好きになった頃の彼らの年齢に今自分がなってみて、すごい人たちだったんだな、と思うことが増えた。

そのときの彼女に影響されて自傷はおぼえるわ、友人関係も破綻するわ、あげくせっかく受験して入った中高一貫校をやめるわといった有様で、親にもずいぶん心配をかけた。思いかえすといたたまれなくなるような、おさない恋愛だったけれど、このバンドに出会わせてくれたことには心から感謝している。

彼らの音楽を好きだと思うときにおぼえる感覚は、好きになった頃から変わらない。十四の私が聴いていた曲を聴くその刹那、私の肉体は二十七でありながら、精神は十四歳の少女のものになる。そうしてやはり二十七だった彼らの作った音楽に邂逅する。不思議な感じ。

昨年が結成二十周年だった。四十を迎えた彼らもまた、人生の半分をこのバンドでやってきている。それだけの時間、バンドをやっていて、五人で一緒にいて、音楽を好きでいつづける人たちだ。それってすごいことだ。

「推し」という言葉を知ったのはずっとあとのことだが、ナイトメアのギタリストである咲人さんは、私にとって生まれてはじめての推しとよべる存在だ。転げ落ちるように何か・誰かを好きになる楽しさは、この人に教わった。私が今、愛するものに対して自覚的でいられるのは咲人さんとナイトメアがいてくれたからと言ってもいい。

二十年間の活動のなかで生まれた曲の数は二百以上にのぼる。離れていた時期もふくめて、聴けるものはぜんぶ聴き直した。そのなかから絞り込むのはおもいのほか骨の折れるものだったけれど、あらためて、このバンドの音楽が好きだなあと確認することにもなった。こんな悪夢を見られる世界でよかった。


■Яaven Loud speeeaker

ナイトメアの曲、というとthe WORLDなんかが代表的だろうと思うが、私のなかで、彼らといえば、と尋ねられて真っ先に挙げるとしたらこの曲だ。今聴くと、これは喉を痛めるのもやむなしというような歌い方だし、健康でいてほしいと願うけれど、この頃の文字通り削るような歌声にはやはり惹かれてしまうものがある。「騙し合って」のハモリの美しさは、イヤホンで聴いているとぞわりと肌が粟立つほどだ。ひさしぶりにミュージックビデオを見たら、若くてびっくりした。十五年前なのだから当然だが。

Яaven Loud speeeaker

Яaven Loud speeeaker

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

■Morpho

気持ちが落ちているときに聴くと、いつもぼろぼろ泣いてしまう。立ち止まってしまったとき、前に進めないと思ったとき、励ますでも奮い立たせるでもなく、ただそれでいい、と言ってくれる音楽があることを知った。この十曲を選ぶのにもさんざん悩んだほど、彼らの曲は好きなものばかりだけど、いちばんはこれかな。

Morpho

Morpho

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

ネオテニー

この曲が収録されているanimaという2006年のアルバムが今でもいっとう好きで、素敵な曲ばかりの名盤だけど、とりわけ好きなのがこの曲。ネオテニーはアルバムの二曲めだけど、一曲めの燻-くゆる-からとおして聴くと、曲のつながりが気持ちいい。十年前からこの曲は好きだったけれど、当時の自分は果たしてどれほど良さをわかっていたのだろう、と今あらためて聴いて思う。"心に宿る 誰もが持つ宝石 無くさないように 忘れないように 「生きることは何か」と思い疲れて 歩き方を忘れた大人へ" なんて、今のほうがずっとずっと刺さる詞だ。

ネオテニー

ネオテニー

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

■Underdog

ぐんっと心を掴まれるYOMIくんの歌い出しと、ぎゅんぎゅんと疾走感のある伴奏が好き。なによりNi~yaさんのベースがすっごく好きな曲。私が惹かれるナイトメアの曲たちは、どれもその旋律の美しさに因るところが多いなかで、これは純粋なかっこよさが琴線に触れる曲。サブスクリプションで配信がないのが残念。

■crevasse

数あるベスト盤にも一度も収録されたことがなく、たぶんライブでもあまりやっていないと思うから、彼らの楽曲のなかではわりとマイナーなあつかいの曲だと思う。でも、つめたい氷におおわれた銀世界が、雲の切れ間から覗く陽光をうけてきらめくような景色がうかぶ詞がすごく好き。YOMIくんって、喋っているときなんかはお調子者という感じの陽気な人なのに、こういう静かな詞を書けるの、けっこうずるいなと思う。

crevasse

crevasse

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

トロイメライ

私の文学的な嗜好はわりと咲人さんの言葉選びに影響を受けているんだな、とこの曲の歌詞をみると思う。この曲で「鈍色」といううつくしい色の名をおぼえた。殺伐とした気分の、灼熱の夏の日に聴きたい曲。これも配信されていない。

VERMILION.

どれだけナイトメアを好きな理由を言葉を尽くして語ったところで、この曲を前にしたら、すべて無意味だ。どこをとっても咲人さんと柩さんのギターの音の重なりが美しくて、脳がびりびりとしびれる。このギターソロをライブで聴いたら、きっと泣いてしまうんだろう。音の印象だけでいうと咲人さんの作る曲はとても寒色寄りだと感じるのに対して、RUKAさんの曲は暖色系の音のつらなりだと思うことが多い。そう考えてから、そういえばこの曲は朱色を冠しているのだったということに思い至る。音色の持つあたたかな印象とはうらはらに、歌詞はけっして明るいものではないけれど、それこそがRUKAさんの、ナイトメアの音楽だな、と思う。

VERMILION.

VERMILION.

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

■叙情的に過ぎた時間と不確定な未来へのレクイエム

十枚目のシングル「レゾンデートル」の収録曲。アルバムならanimaだけど、シングルならこれがいちばん好きかもしれない。表題曲のレゾンデートルも、もうひとつの収録曲であるCriminal Babyも好きなのだ。曲名も、歌詞も、音も、とにかく咲人さんらしい曲だな、と思う。昔はずいぶんと長い曲名だと思っていたけれど、今ならこれでなくてはいけない必然性がすこしわかるようになった気がする。二十周年記念のメンバー別ベスト盤で、本人もこの曲を選出していて、なんだか納得した。

叙情的に過ぎた時間と不確定な未来へのレクイエム

叙情的に過ぎた時間と不確定な未来へのレクイエム

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

■ジェネラル

音も好きなのだけど、「すべて大嫌いと言って壊してしまうのは簡単過ぎるけれど 自分の真ん中で何か崩れそうで怖くて出来ない」という歌詞、すごくよくわかる。静かな夜に聴きたくなる曲。

ジェネラル

ジェネラル

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

■シンプライフ

この曲が収録されているアルバム、majestical paradeは、瀟洒な印象の曲が多い(音の厚い曲が多いそれまでのアルバムとちがって、ずいぶん雰囲気を変えてきたな、というのを発売された当時にも感じた記憶がある)。華やかな曲が続いたあとに、おだやかなアルペジオでこの曲がはじまると、ふっと息が抜ける気がする。この曲と、この次に続くクロニクルの流れは、まるで陽がすこしずつ傾いて影がのび、空が紺に染まってゆく様を思わせてとても好き。思えば、アルバムをとおして聴く楽しさを教えてくれたのも、このバンドかもしれない。

シンプライフ

シンプライフ

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

■雨と夜に墜ちて

この記事を書くにあたって、あまり聴いていなかった時期の楽曲もちゃんと聴こう!と思ってひととおり聴き込んでいたなかで、歌詞もメロディも好きだと思った曲。Apple Musicで「雨」というプレイリストを作っていて、ドヴォルザーク上原ひろみやŹOOĻなんかと一緒にこの曲も入っている。もともと雨が匂い立つ音楽というのが、ジャンルを問わず好きなのだ。すこしさみしくて悲しい。

雨と夜に墜ちて

雨と夜に墜ちて

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com


とくに曲の作り手を意識して選んだわけではないのだが、こうして見ると、咲人曲の多さが際立つ。咲人さんのことが好きなのは、彼の選ぶ音と言葉に、理屈ぬきに惹かれるからなのだろう。でも、RUKAさんのつくる曲もふくめて、ナイトメアというバンドの奏でる音が好きなのだ。ここに挙げきれなかった曲は、まだたくさんある。

彼らを好きでいるかぎり、私の生きている時間の中で彼らの音楽とともにあった時間の占める割合はどんどん長くなってゆくのだと思うと、そのことが嬉しい。これからも好きでいたいと思っているし、来年はもうすこしライブとかインストアイベントとかにも参加してみようかな、という気分にもなっている。

■番外編:ジャイアニズム

メアギャならばジャイアニズムシリーズからひとつは選んでおかないといけないのでは?という気持ちに駆られてしまったので、番外編として。ひとつめの自傷からジャイ天までの十曲で、音楽としていちばん好きなのはどれかと問われたら惨か碌をえらぶのだけど、あえて死を選んだのは、この曲に特別な思い入れがあるからだ。私がナイトメアの五人を生で観たのは、この十四年でたった一度きりである。その唯一が、ジャイアニズム死のミュージックビデオの撮影だった。高校一年だったはずだから、2009年のことだ。そのときの高揚感ったらなかった。ライブハウスで、もみくちゃになって、ヘドバンをして、叫んで、音に身を委ねて、それらすべてが生まれて初めてのことだった。もともと私がものものしい風貌のビジュアル系バンドに傾倒することをよく思っていなかった母をなんとか説得して、門限をぜったいに守るという約束で行かせてもらったので、最後までいられずに泣く泣くライブハウスをあとにしたことをおぼえている。それでも間に合わなくて大目玉をくらって、好きなものを好きでいるだけのことをゆるされないのがすごく悔しかったことも。

ジャイアニズム死

ジャイアニズム死

  • NIGHTMARE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

おとなになって、好きなものを好きなように好きでいることができるようになった。ところが、なんだかんだで機を逸し続けてしまって、いまだに彼らに会いに行けていないまま、もう十二年が経とうとしている。ちょうど新曲を引っさげてのツアーがはじまったところだ。年末のライブのチケットがとれたので、十二年ぶりに、彼らに会いにゆく。まだ楽しい悪夢は終わらない。