2022/1/11

布団に入ったのはそう遅くなかったのに、低気圧のせいか、まったく起き上がれなかった。どうにか九時前に布団から這い出す。仕事は今日から新たなフェーズに入り、これから2週間ほどは、トラブルが起きたら火を消してまわる役目だ。あちこちで火事が起きるとめんどうなことになるけれど、さいわい初日は穏やかに時間が過ぎていった。というか、ひらたく言うと暇だったので、ときどき飛んでくる連絡を打ちかえしつつ、ほとんどの時間は好きな声優への手紙を書いていた。

ファンレター、というものを書くようになったのは最近のことだ。異国のアイドルを好きだったころには書かなかった。言葉にたいする矜持があるからこそ、不自由な言語で、自分の伝えたいことをすこしでもとりこぼすのが悔しかったのだ。でも、やっぱりつたなくても伝えておけばよかった、と今になって思う。読まれるかもわからない不確かなものであっても、届けようとしなければ届くことはないので。べつに手紙を送ろうが、インターネットでただ愛情を書きこぼすだけだろうが、本質的に他者のファンであるというのがひとりよがりないとなみであることに変わりはないのだけど、伝えようとする自分でありたい、というところなんだと思う。

夕方、荷物をまとめて出かける。1泊の出張だと身軽でよい。新幹線のなかで中島らもの『今夜、すべてのバーで』を読んでいた。数ヶ月ほど前にインターネットで見かけた、中島らもが「徹子の部屋」に出演したときの映像がとんでもなくおもしろくて、それをきっかけに『バンド・オブ・ザ・ナイト』を読んだ。ほかの作品も読みたいなと思っていたところに、本屋で『今夜、すべてのバーで』を見かけて購入したのだが、それからしばらくして、好きな声優が雑誌の特集で「100回読み返したい本」としてこれを挙げていて、思わぬ符合にうれしくなったものである。語り口は淡白でありながら、ところどころにユーモアがしのばせてあって、ところどころ心臓に刺さるようなフレーズがあって、笑えるとか楽しめるとか、そういうのだけではないおもしろさ。『バンド・オブ・ザ・ナイト』の酩酊と倒錯に満ちた、変拍子が効いた文体の印象とぜんぜん違ってびっくりした。乗り物酔いしやすいたちだというのに、ぐいぐいと引っ張られるようにしてページを繰る手がとまらず、吐き気も忘れて名古屋までに着くまでの1時間半であらかた読んでしまった。