無題2

酒を飲んでへんな時間にソファで寝落ちていたら、布団に入ってから一睡もできなかった。睡眠不足がずんと頭に重さをもたらしている感覚はあるのに、睡魔はいっこうにやってこないのだから参る。仕方なく二次創作をあれこれと読み漁っているうちに、空が白んでいた。それとともに、なんとなく自分の抱える鬱屈のみなもとが見えてきたような気がして、これ以上布団の中にいても埒はあかないように思われたので、起き出してこれを書いている。このところ私が熱を上げているのは、何かを信じぬくことに長けていて、八重歯を見せて人懐こく笑う、ひとを惹きつけてやまない手合いの太陽みたいな男だが、ギャンブル狂いで万年素寒貧で、人に金を無心することを恥とも思わないような男でもある。現実にこういう人間がいたら、この状況はれっきとした依存症であって本人の責に帰するところではない、と言いながら治療につれていくことだろうが、物語のなかに生き、「賭場で生誕、略歴は以上!」と力強く言い切る彼は、真実その生き方をみずから選びとっているのだ、ということを力づくでこちらに理解させてくる。そのつきぬけたクズっぷりは燦然とまぶしい。こと二次創作の世界において、そういう彼のぎらぎらとしたいのちのあり方は強調されることが多く、クズにクズを塗りかためた人間として描かれる彼を続けざまに流し込んでいて、私に足りていないのもこれだなと思った。私はあまり推しになりたいという感覚を持たないほうだが、こいつには心底なりたい。こういうふうに苛烈に生きてみたい。自分がつまらない、と昨日書いたが、たぶんきれいすぎるのだ。漂白されている。自分を大事にしすぎている。労働して、家事をして、勉強もして、好きなこともして、社会の理不尽にときどき怒って、共感の限界を承知しつつも弱者の痛みに寄り添おうとして、他者を嫌うこともなく、悪態はなるべく胸のうちにとどめて、誠実でいる努力をして、なにひとつ間違ったことをしていない。望むと望まざるとにかかわらず社会の構成員である以上、正しくあろうとすることが正しさだと思っているし、そうありたいと思ってはいるけれど、それはそれとして、もっと馬鹿で愚かで汚くてださくて醜い自分が必要だし、そういう部分を手放したから何も書けないでいるんじゃないかということに思い至る。ここに欠けているのは退廃だ、自分のいのちを無駄にすることだ。倫理に悖る恋愛とかしちゃったり、どうでもいい相手とラブホ行っちゃったり、恋人をさしおいて手近な相手とキスしちゃったり、酒飲んでべろべろになって前後不覚になってゲロ吐いたり、そういうやつ。今同じことができるかって言ったらできないし、したいわけでもないけど、でもそういうのがほしい。ほしいっていうか、そっちのほうがおもしろい。正しくあろうとする人間でありたい、というようなことを私はしょっちゅう言うが、それは正しい人間にはけしてなれないという前提にもとづく。性善説か性悪説か、と問われれば後者を支持するとこたえるけれど、人間は努力によって善たりうる、というところには賛同しない。その努力こそが善なのであって、努力の先に獲得しうる善性の存在は信じない。というか、そんなものがあったとして、真に善なる人間なんてもはや神の域だし、そんなところに行っちゃったらおもしろくないでしょう。思うに、いのちを無駄にする瞬間にこそいのちは価値あるものになりうるのではないか。人間を、理性を持つという点でほかの生き物と一線を画す存在としてあつかう向きもあるが、それでいうなら、向上心だとか誠実さだとか勤勉さだとかそういうのうっちゃって、高邁な生き物であろうとすることを放棄して怠惰と強欲と嫉妬と淫蕩にみずからまみれることこそ、理性を持つ人間だからこそできるおこないであると考えることはできまいか。あー、くだらねー。寝不足のとき特有の頭の重さと体のだるさ。ばかめ。さあ、労働の時間だよ。