世界のよりしろ

寝ても覚めてもモリミュOp.2の楽曲が頭から離れなくて、何を観ても頭に入ってこなくてそろそろ閉口している。Op.4を観に行くまでこの調子だったらどうしよう。

ひさしぶりに何も予定の入っていない土日。正午をだいぶまわるまで布団でまどろむ。昼、残りの肉じゃがを温めて食べ、仕事に行く連れを見送って、掃除機をかけて、あとはずっとインターネットをさまよっていた。このところすっかり出費に無頓着になってしまっていたので、去年の出費をひととおり整理して、不要なサブスクを解約したり、予算を立て直したりしていた。明日はちゃんと投資を動かしはじめようと思う。せっかく予算を設定したからには、ちゃんと意識して切り詰めていきたい。ついでに還付申告をしてなかった一昨年以前分の寄付金の領収書とか、年末調整で申請し忘れた保険料払込証明書とかも机の奥から引っ張り出して整理したので、昨年分の領収書がひととおり届いたらまとめて税務署に持って行くことにする。領収書が見当たらない団体がひとつだけあって、己の管理の杜撰さを恨めしく思っている。


生きていることが恥ずかしい。つらいとか苦しいとかだといまひとつすっきりしないなとずっと思っていたが、カナファーニーの小説を読んでいて、不意にその言葉が落ちてきた。

つまりね、人間ってのは、たいてい自分がある場所で足場を得ると、”それじゃあ、どうする?”って将来のことを考えはじめるもんでしょう。何がいまわしいかって、自分に”それじゃあ”っていう先のことが、からっきし与えられてねえってことがわかったときくらい、無惨なことはねえですよ。

ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』(黒田寿郎/奴田原睦明 訳)収録『彼岸へ』より

私は恥ずかしい。「それじゃあ、どうする?」と悩むことのできる自分が恥ずかしい。明確に言葉にすることすらいたたまれない気持ちになるけれど、自分が安全地帯にいて、「大変な人たち」を憐れむ立場に安穏と身を置いていることが恥ずかしい。自分が特権を持っていることを自覚していると口にするのも恥ずかしいことだと最近は思う。安全地帯にとどまることが悪なのではなく、安全地帯にとどまりたいと思うことが悪。

それでも、「それじゃあ、どうする?」と戦わねばならないのだ、私は。突然お金のことを考えはじめたのは、この先どうしたいのかを考えたときに、やっぱり何よりも先に頭に浮かぶのが大学に行きたいというところだからだ。何がしたいかもわからないのに大学に行きたいとか海外に行きたいとか言っていても仕方がない、とつねづね思ってきたけれど、後者はともかく、ほんとうはぼんやりと学びたいことなら見えているのだ。でもそれは、「ここ」という明確なものじゃなく、「こっちの方」というくらいの茫漠としたものだ。そういう曖昧な状態で飛び込む勇気がない。確信がない状態で学びたいと口にしていいのだろうかという躊躇いがある。私はずっと自分にとっての唯一を、天啓を、生きる意味になるような何かを探しているのだ。かつては恋人という形で他者にその立場を求めていたし、ここ数年はそれがいわゆる「推し」に代替されていて、たぶん今学問にそういうものを求めている。これがあれば生きていてもいいと思えるような、世界と私を結びつける依り代がほしい。まもなく30で、学び舎を卒業してそろそろ7年にもなろうかというのに、まだ何も見つけられていないことにずっと焦っている。世界とのつながりがどんどん希薄になっていく。この先も見つからないのかもしれない思うと途方に暮れる。だけど学んでいる間だけはその恐怖に負けずにいられそうな気がする、私の動機なんてそんな程度のものにすぎない。そんな自分に学ぶ資格はない、と思いたくなる。とかいって、これも所詮自分を安全地帯にとどめおくための言い訳で、つくづく卑怯だと思う。

徹頭徹尾、私は誰かのために生きることはできないし、誰かとほんとうの意味で親密になることもできない(と今は思う)。この数ヶ月、さんざん考えて、自分がそういう人間であることから目をそらすことはもうできないと思った。私を愛してくれる連れにも友人たちにも申し訳ないけど、死にたくてたまらなかった頃よりも今のほうが孤独かもなと思うときもある。私の世界には誰もいない。私は自分の「それじゃあ、どうする?」に答えることで頭がいっぱいで、それ以外のことを考える余裕がない。でも、より良い社会のためにできることをしたい、だなんて口触りの良いことを言うより、そうやって開き直ったほうがよほど誠実だと思う。私は私のために私が恥ずかしくない生き方をしたい。そういう生き方をできるようになったとして、その先にあるものが、結果的に私が良いと思う社会の実現とそう遠くないところにあればいい。ものすごく独善的だけど、偽善と善の区別をする意味がないように、独善と善の区別もたいして意味がないはず。

全然何言ってるかわかんねえや。寝ましょう。