2023/4/7

連れの家に泊まって、朝帰宅した。連れの家は駅からすこし距離がある。道すがら、玄関前に立派な藤棚を備えた家を見かけた。もうすでに紫の花が開き始めていて驚いた。道端にもこれでもかと野花が咲き誇っている。今日はタンポポやノゲシ、ノボロギクがたくさん目に留まった。桜はどこも、すっかり葉桜になっている。連れは葉桜が好きらしく、花弁が落ちたあとの赤い萼と新緑のコントラストを見かけるたびにきれいだなあと嬉しそうにしていて、私も葉桜が前より好きになった。柿の果樹園で、黄色に近い明るい緑の新芽がたくさん芽吹いているのも電車から見かけて嬉しくなった。欅の新芽もひときわ色が濃くなったし、数日前にはぽわぽわと間の抜けた新芽を生やしていた家の前の街路樹のハナミズキも、どんどん葉が大きくなって、一人前の樹らしくなってきた。この季節は毎日見える色が変わる。

ようやく花粉の猛威も落ち着きつつあって、思いきり春の匂いを吸い込めることが嬉しい。どんなに街並みがかわっても、春の匂いはかわらない。どうしたって新学期の記憶と結びついているから、背筋がのびるような気持ちにさせられてしまう。そうはいっても会社員になってから6度目の春で、私自身に目新しいことはない。ここ数日、新入社員とおぼしき人々の、あまり似合っていないスーツ姿を見かけるたびに、ブッツァーティ『タタール人の砂漠』のことを思い出して苦い気持ちになっていた。新しい生活を前に、胸を膨らませる気持ちを、これからどれだけ味わえるだろう。

最近、また写真が撮りたいと思うことが増えた。記録しておくだけならスマートフォンでじゅうぶんだけど、やはり景色を慈しむには何かが足りないような気がしている。カメラを持ち歩いてみようか。

ろくに仕事をする気分になれないまま夕方になった。家を出るのも億劫だったが、舞台『ダブル』は見納めなので、観たい気持ちが勝ってでかけた。最低限の装い。やけに演者のギアがひときわ入っているなと思ったら、あとから原作者が観劇しに来ていたことを知った。もっと観たかったなあ。