2023/10/15

※本格ミステリー歌劇『46番目の密室』および有栖川有栖の同名原作小説のミステリーの犯人に触れるネタバレがあります

 

 

朝番で早朝に出る連れを布団の中から見送り、昼前まで眠る。ネイルに行って、出張の準備をして、横浜へ。ほんとうなら最低限の家事をこなしてから出かけたかったし、友人とももっと早く合流してゆっくりお茶をできる目論見だったのに、時間の読みが何から何まで間違っていて、全然だめだった。挙げ句、夜にはまた大阪に行くというのに、出張申請もホテルと新幹線の予約も忘れていて、それなのに社用携帯の電池がなくなっているからやりたくてもできなくて、と悪い状況が重なり、自分の見通しの甘さにすっかり自己嫌悪のスイッチが入ってしまってきつかった。

それでも、友人と顔を合わせれば気分は上向くし、どんな公演が観られるかもちゃんと楽しみにできた。今回の公演の原作にただならぬ思い入れのある友人は、着席してから緊張のあまり密度の高いため息を幾度もこぼしていて愛おしかった。

ということで、KAATにて本格ミステリー歌劇『46番目の密室』を観てきた。観られてよかった、と素直に思える舞台だった。キャスト陣の歌唱は圧巻だったし、舞台セットもスケールが大きくて見ごたえがあった。原作を読んだ時点で、犯人役に輝馬がキャスティングされていることには期待を寄せていたけど、それにしてもその期待を満たしてくれる俳優の使い方になっていたのもよかったし、主役のふたりが白樺の森の中佇むラストシーンの演出も美しかった。舞台で映像投影する演出は、説明過多に感じることが多くて、個人的には好まないのだけど、今回に関しては、使わないとかなり展開についていくのが厳しいからやむを得なかったという以上に、これまでタイプされてきた文字がバックスペースで削除されていって、最終的にタイトルが画面上に残るという終幕が鮮やかで好きだった。状況説明的な歌詞が多かったこと、歌唱力が高すぎる面々をそろえてしまったがゆえに、かえって本筋に大きな影響のないところで尺の長い楽曲が入ってちょっとだれたところがあったこと、何より、真壁と石町の同性愛関係を説明するのに「背徳」という語彙を使ったことなどもあって(これは原作そのものが同性愛をトリックの解に使うという前時代的・差別的な価値観で書かれていることもあるのだけど、それにしても2023年に上演するならそこはうまく翻案してくれよと思った。背徳=罪として扱わなくとも、ヘテロ恋愛と同じような痴情のもつれに仕立て上げるような言葉選びはいくらでもやりようはあったはず)、けっして満点だったとは言えないけど、ミステリーを歌劇に仕立て上げるという難しい試みをよくぞここまで、という称賛の拍手を送りたい。こだわりと心意気と矜持をを随所に感じる作品だった。終演後、まっさきに友人と「背徳はだめだよなあ!?」と確認しあえたのが良かった。なんというか、全体としてはきちんと気を使われた印象になっているだけに、詰めの甘さがもったいないなあという感想。友人は原作ファンだけど、私は井澤勇貴という役者になんとなく心を惹かれつづけているので、彼の良さを楽しむという意味でも観に行けてよかった舞台だった。

新横浜でどうにか社用携帯を充電し、無事にホテルも予約して、大阪についたのは日付の変わった頃だった。インターネットでは、作中の火村英生の死刑制度と無神論に関する台詞を発端として、法と宗教についての話題で友人たちが盛り上がっていた。空リプでみんなが好き勝手に喋っているの、10年前くらいのtwitterのようで懐かしくて楽しい。