2023/10/19-21 G4Y福岡遠征記

10/19

朝、友人たちは都内で終映日を迎えるムビナナを観に行っていたが、散々悩んだ末に見送った。このところ私の出張やら連れの朝番やらで、連れとゆっくり朝を一緒に過ごせていなかったから。それと、なんとなく気持ちがささくれていて、アイドルたちの輝きを真摯に受け止められる自信がなかったというのもある。どうせ同じアイドルを見に行くために福岡に行くのだが、こういうのは気持ちの問題だ。たぶん、機会はまたあるだろう。

降りるべき駅を乗り過ごして、予定にない特急に乗る羽目になったりしつつ、ぎりぎりで空港に到着する。行先が同じであろう、グッズを身につけた人の姿がちらほらと同じ便にいた。福岡に到着し、カプセルホテルでチェックインをすませたあとは、すぐに会場に向かった。みんな、キャラクターごとのメンバーカラーをいろんな形で身につけている。今日この日を楽しむために思い思いに装っている姿を見るのが好きだ。好きな相手を概念化して身にまといたいって、ほんとうに健気でかわいくて愛おしい願いだ。かくいう私も、その一人である。八乙女楽はコンサートのことを祭だ、ハレの日だと言ったけど、こうしてそれぞれがめかしこんでいる様を見るとそのとおりだと思う。浮ついた空気を味わいながら物販の整理番号が呼ばれるのを待っていた。

むりを言って休みを取って福岡まで来た目的のひとつは、今会場限定のトウマくんのアクスタだった。事後通販もあるそうだから慌てなくてもいいのだが、早く手に入れたいのがオタク心である。整理番号はけっして早くはなく、間に合うかどうかひやひやしていたのだが、整列の招集がかかった時点ではまだ売り切れていなかったから、これなら大丈夫かと胸をなでおろしていた。ところが、売り場まで通されて、あと3人で自分の会計がまわってくるというときだった。注文リストを更新したら「売り切れのため注文できない商品が入っています」と表示された、その瞬間の絶望感ったらなかった。頭が真っ白になって、うそだ、うそだって半ばパニックになりながら画面を何度も更新した。ダメ元でスタッフさんになくなっちゃったんですよね?と尋ねても現実は変わらなかった。すっかり気落ちして、それでもロゴアクキーだけ買ったけど、人目がなかったらその場にしゃがみこんで泣きわめきたい気分だった。追い打ちをかけたのは、もしやと思って開いたフリマアプリで、早々に10000円越えの高額転売で出品されていたことだった。販売開始から数時間だ。見境のねえクソ野郎ども。このところŹOOĻのメンバーのグッズ相場はのきなみ高騰しているから、それを見越して、はなから転売目当てで買っている輩がいるのだろう。世界を呪いたい気持ちになって、さんざん落ち込んでインターネットに悲しみと怒りを吐き出し、友人たちに画面越しになぐさめてもらいながら、こんな気持ちでいて楽しめないくらいならよっぽど東京に帰りたい、とまで思った。

転売屋へのありったけの罵詈雑言を内心で並べ立てながら、どうにか取引できる人はいないかと、しばらく血眼でスマホにかじりついているうちに開場時間が近づいていた。ようやく諦めがついて空をあおいで深呼吸をしたら、まだ暮れきらない薄青の空に細い三日月が浮かんでいて、それですこし頭が冷えた。席に座ったら、隣席の壮五担らしきおねいさんが「トウマくん推しですか?」と声をかけてくれて、2色ランダムの特典チケットがトウマくんカラーだったので交換しないかという。あわてて自分の分を開封したら、都合のいいことに私は壮五くんの色を引いていて、おたがいほしかった色を手にすることができたのだった。それでようやく張り詰めていた気持ちが溶けた感じがした。おねいさん、ありがとう。

一般販売で取ったチケットだったから、座席は2階のほぼ最後列に近い、いわゆる天井席だったけど、ホール自体がそう大きくないので、舞台はわりと見やすかった。それでようやく、本心から来てよかったと思えた。トウマくんと壮五くんの会場アナウンスも、アイドルたちのパフォーマンスも、ちゃんと楽しみになった。

実際、開演前の会場アナウンスは、楽しみにした甲斐があった。アイドリッシュセブンという作品を知って数年経つが、ストーリーには心を奪われつつも、これといって好きな人が定まらないままで、トウマくんを好きになったのはつい最近のことだ。だから、私は彼のことをまだ何も知らないに等しい。こんなふうに話すんだ、こうやって笑うんだ。親しい仲だという壮五くんに褒められて照れたように笑う声を聞いて、ああやっぱり来てよかったなあって改めて嬉しくなった。開演直前のアナウンスでは、靴下が左右違うことを壮五くんに暴露されていて、パフォーマンスはちゃんとやるから!と弁解していたのが愛おしかった。紅茶の香水をつけていることも壮五くんが教えてくれて、沸き立つ気持ちを抑えながら、今度友だちについてきてもらって探しに行こうと思った。

コンサートも、すっごく楽しかった!アクスタが買えなかった元を十分すぎるくらいに取り返した感じ。とりわけ、東京では聴けなかったŹOOĻのNo Sacrificeと、TRIGGERのTreasure!を聴けたのが嬉しかった。ノサクが聴きたかったのも、福岡に来る動機のひとつだったのだ。三月が「何度でも幸せにしに来るからな!」みたいなことを言ってくれて嬉しかった記憶があるんだけど、レポを読んでいてもあまり見かけないので幻だったのかもしれない。一織が陸の「明太子事情」というワードチョイスにツボって腹を抱えて笑っていたの、かなりレアな姿で愉快だった。

終演後は、宿の近くで見繕ったラーメン屋に行った。もともとそのつもりだったけど、ŹOOĻがMCでラーメンの話をしてくれたから、なおのこと気分が向いた。味の評判もよく、女性ひとりでも入りやすいと紹介されていて、深く考えずに選んだ店だったが、夜の店が立ち並ぶ歓楽街のど真ん中にあって、黒服の男性や華やかな服装の女性たちが闊歩する街に、オタク丸出しの自分はあまりに場違いで、やや気後れしながら歩く羽目になった。店そのものはたしかに入りやすかったけども。私が到着した頃には6,7人並んでいたが、ラーメン屋なので回転は速い。後ろに並んでいた外国人旅行客に食券の買い方を教えたりしているうちに、そう待つことなく店に通された。ふんわりと泡立った豚骨スープは臭みもなく、しつこいものが苦手な私の口にも合って、美味しかった。ビールも頼んで幸せな気持ち。旅先で飲む酒が好きだ。

トウマくんの色だからと履いてきたえんじ色のショートブーツは、めちゃくちゃかわいくて気に入っているけれど、長距離を歩くには向かない。足の痛みに耐えかねてまっすぐ宿に戻った。シャワーを浴び、寝支度をして就寝。

10/20

泊まっていたカプセルホテルは、連泊でも毎朝チェックアウトをしないといけない仕組みだった。外に出ると、雨が降っている。寒い。会場に行くにはすこし早いので、近くにあった適当なカフェでブランチをとった。明太子とチーズのホットサンドと、八女和紅茶のセット。自家焙煎の豆を売りにしている店だったし、私自身もコーヒー党でありながら、めずらしく紅茶を選んだのは、八乙女楽が頭に浮かんだからである。八女茶は福岡の銘茶だそうで、香りが高くて美味しかった。

会場の最寄り駅はひとつ隣だったが、カフェから歩いてもそう時間は変わらないので、30分ほどの距離を雨の中歩いて会場に向かった。カフェでゆっくりしすぎたせいで、到着したのは開演の15分前くらいだったか。寒暖差アレルギーなのか、いつもにまして鼻炎の症状がひどくつらかったのだけど、開演したらぴたりと鼻水が止まった。

12時公演は、セトリは東京で観たのと変わらなかったものの、MCがすごかった。アイナナの7人は、そろそろ寒くなってきたからこたつを出したいというところからはじまって、福岡の宿泊先ではこたつ代わりに(?)大和さんの部屋に大集合している、というほのぼのしたエピソードが披露されていた。その時点でも会場から悲鳴が上がっていたけど、メンバーが自分を尋ねてくることを見越して、大和がお菓子やジュースや王様プリンを用意している、と陸と環が言い出したとき、その悲鳴は一段と大きくなった。大和は「集まってくるなと思ってたけど、こたつ気分だったの?」ととぼけたような反応で照れ隠しをしていたけど、いつも会場近くのコンビニの場所を事前にチェックしていることを三月にバラされ、年下組が次は一緒に行って荷物持ちする!と宣言して、三月に「よかったな、おっさん!」ってひやかされたあたりで、「頼むからもう勘弁して……」と後ろを向いてしまい(壮五くんには「赤くなってますね」と指摘されていた)、私は大和推しの友人の顔を思い浮かべながら、一部始終を早く伝えたくてたまらなかった。

ŹOOĻのMCもたまらなくて、はるちゃんがメンバーとプリクラを撮りたいと言い出したのには、可愛すぎて崩れ落ちるかと思った。「ファンのみんながいるから言っちゃうけどさあ!」って、言い出すのにすこし勇気を必要としていたことも、その勇気をファンに求めることも。「ミナとトラはこういうの慣れてないだろうし、練習しとくか!」ってトウマくんが言うのにも動揺した。え、トウマくんも慣れてるってこと?ともあれ、練習という体でファンサタイムをしっかりねじこんでくるトウマくんって、しっかりアイドルなんだなあと思って嬉しくなった。私はムビナナDay2の16人ファンサのウィンクで彼に陥落したので。末っ子のねだりにまんざらでもなさそうな3人も、「やったー!撮ってくれるって!」とメンバーの了承をとりつけたことを嬉しそうに会場に報告してくれるはるちゃんも、愛おしくて愛おしくてたまらなかった。この回は、大トリでŹOOĻが観たい、という願いが叶って嬉しかった。

2公演目には入らないので、一度会場を離れた。雨は上がっていた。会場に来る時点ですでに足は痛かったのだが、けっきょく片道30分ほどかけて評判のいいパン屋まで足を伸ばしてしまった。もともと歩くのが好きだし、ひとりだと気兼ねなくこういうことができて楽しい。明太フランスが人気の店とのことだったのだが、朝ホットサンドを食べてしまったので、別のものにした。どれもおいしかったけど、今になってやっぱり明太フランスも食べておけばよかったかな、という気がしないでもない。

会場に戻りがてら、たまたま前日に見かけていたむっちゃん万十の店に寄って買い食いをした。たい焼きに似ているが、ムツゴロウの形をしている焼き菓子(?)で、福岡出身の好きな俳優が以前おいしいと言及していたものだ。昼食の直後でなければもうあと2つくらい食べたいところだった。

会場の裏手は、海に面して公園が整備されていた。午前中の曇天は跡形もなく、青空を映した水面に西日が差して、気持ちのいい景色だった。キャラクターのタオルやぬいぐるみと一緒に、友だちどうしで思い思いに記念写真を撮っている人がたくさんいた。このときほど愛する友人たちに会いたくなった瞬間はない。幕張は友人たちと一緒に行けるので、今から楽しみ。

オーラス、18時公演。開場早々に席に着いたけど、場内は電波が悪く、退屈して手元のぬいで遊んでいたら、隣のおねいさんに「かわいいですね」って話しかけてもらって嬉しかった。公演が始まった直後、私のペンラの電池が切れてしまったときに自分のを貸してくれてありがたかったし、おもいっきり楽しむぞって心意気が伝わってくるくらい楽しそうに音に体を揺らしていて、すごく素敵な人だった。隣にそういう人がいると、こっちまで楽しくなる。出演は、ŹOOĻ→TRIGGER→Re:vale→IDOLiSH7の順番だった。しょっぱなでŹOOĻが来てしまうことへのさみしさはありつつ、ラスト1回、ノサクをもう一度聴きたい、という願いが通じたのは幸せだった。最後の最後がマロウブルーで、「願わせてね また会えること 新しい僕らへ変わってく」という言葉を残して終演するのはずるいなあと思う。希望とさみしさで真っ二つに引き裂かれるみたいだった。

終演後は、宿の最寄りよりも先の駅の定食屋に足を伸ばした。足の痛みはだいぶ限界だったものの、食事への執念である。がんばった甲斐はあって美味しかった。

宿に戻ったのは21時過ぎ。ロッカールームには、グッズTシャツを着ている人や、ぬいポーチを持った人が何人かいた。公演が終わってしまっても、あの時間と空間を共有していたのであろう人たちが近くにいると思うと、なんだか嬉しかった。夢みたいな時間が終わってしまっても、夢じゃなかったことを証明する名残。こっちは早々にトウマくんのグッズをしまいこんで、ジャージに着替えてしまっていたから、向こうはきっと気がついてはいなかっただろうけれど。

カプセルに引き下がって、感想をつらつらとインターネットに放流しているうちに、突然涙が止まらなくなった。もっとがんばりたいなあ、という気持ちがふつふつと湧いてきた。もっときれいになりたいし、体を絞って、筋肉もつけて、化粧もうまくなって、かっこいい洋服も着こなせるようになりたいし、仕事だって、不得手とするルーティン業務も怠らずにやって、語学も資格もちゃんと勉強して、家もきれいに保って、文章も書いて、不正義に怒り差別に抗って、それでトウマくんに恥じない人になりたい。私が私を好きになるために必要なこと、ぜんぶやりたい。

こんなのが呪縛でなくてなんなんだと思う。間違っても他者にこれを適用するべきではない。この言葉の効力は私だけの範疇であるべきで、つまり不特定多数の目に触れるような場所で言うべきことではないんだけど、でも、とにかく、私は私の今いる場所でアイドルと同じくらい凄い人になりたい。苦しいけど、苦しくてもいいからトウマくんに顔向けできるようになりたい。優しくありたい、強くありたい、かっこよく、美しく、まっすぐにいたい。トウマくんの見せてくれるものを受け取れる私でいたい。どうせ自分にはできやしないんだって腐って、自傷を繰り返すことをやめたい。私は、トウマくんに、すげーじゃん、かっこいいじゃんって言ってほしい。実際に言われなくてもいいから、言ってもらえると思えるくらいに自分でやりたい。彼のくれる光に照らされて影になりたくない。陽光を受けて、光を返せる人でありたい。こんな人に応援されて嬉しいって、彼に思ってほしい。

全部自分の理想のとおりにするなんてむりだって、わかっている。それでもむりだからって諦めることまでしたくない、がんばりたいって思っていたい。もう何もできないのかも、がんばれないのかもって思って、もう全部どうでもよくなってきてたけど、もうこれ以上無気力に人生を食い尽くされたくない。今からでも遅くないだろうか。そう思って初めて、このところ自分が自分のことを手遅れだと見限っていたことに気がついた。

そんなことを考えていたら、後から後から涙が出て止まらなくなってしまった。自分の中につっかえて淀んでいたものが全部流れ出ていって、新鮮な風がすうっと吹き込んできたみたいだった。この半年ずっと、いつだって砂漠みたいにからからになった私に水をくれたのはトウマくんだ。立ち止まって、いじけて後ろ向きになろうとする私を、何度も、何度もひっぱりあげてくれた。かっこよくいてくれてありがとう、歌ってくれてありがとう。ほら、って窓を開けて忘れていた景色を見せてくれてありがとう。その夜は泣き疲れて眠った。

10/21

飛行機の時間まで余裕があったので、美術館か博物館に行こう、とは前々から決めていた。泊まっていたカプセルホテルから近かった福岡アジア美術館と迷ったものの、福岡県立美術館で開催中の児島善三郎という油絵画家の展示を見てきた。開館直後ということもあり、館内は空いていて、かなりゆっくり見て回れた。画風そのものはそこまで好みではなかったが、エッセイや親しい人への書簡のなかで綴られる、絵画への情熱がまぶしかった。前の晩、まっすぐに生きたいと思ったばかりだったからか、筆に込められたいのちの鋭さにあてられて、何度も涙をこらえないといけなかった。


(写真撮影OKだった1枚)

美術館を出たあとは、有名なラーメンを食べて帰ろうと思ったが、行ってみたら想像の10倍並んでいた。とはいえラーメンは諦めきれず、博多駅に移動し、有名店が一角にまとまっている商業施設で食べることに。2019年のペンタゴンのzeppツアーで訪れたときに来たのと同じお店だったことには、入店してから気がついた。ラーメンに明太子ご飯に餃子で満腹になって東京に戻った。

アクスタが買えなかったこと以外には、これ以上ないほどに満喫した遠出だった。次は友人たちとの幕張。まだまだ、旅は終わらない。