2024/4/3

18時すぎに仕事を切り上げて、連れと落ち合って映画館で『DOGMAN』を観た。なんか、うーん、うーーーーーーーん。釈然としない映画だった。主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは見ごたえがあったけど、脚本がずっしり重いわりに中途半端というか、なんか……釈然としなかった。連れと帰りの電車でいろいろ感想をひねり出そうとしていたものの、ふたりともとくに何を言えるでもなく、無理して話すものでもないねという結論になった。というかこれを「ダークヒーロー」と宣伝してしまうのはどうなんだよ。犬は美しいいきもの。

帰宅してありもので夕飯。鶏もも肉のソテーにパセリとマスタードのソース、えのきの唐揚げ、胡瓜のヨーグルト和え、インスタントのわかめスープ。

2024/4/2

連れが全休なので、私も休みをとった。この季節の連れとの恒例行事になりつつあるピクニックの日である。昼過ぎに起き出して、サンドイッチをたくさん作った。シンプルなたまごサンド、ローストポークとレタスとトマト、それから胡瓜サンド。胡瓜は、『ハクメイとミコチ』に出てくる調理法で、粗みじんに刻んで粗挽き胡椒をたっぷり振り、ヨーグルトと和えるのが美味しそうだったので真似してみた。アレンジでクミンをすこしと、レモン汁も加えた。バナナホイップサンドも用意するつもりだったけど、うまく泡が立たなかったので、それは諦めて家を出る前に食べた。

今年は家から歩いて30分ほどの場所にある公園に行った。すこし満開には早かったが、それでもよく咲いていた。缶ビールを2本と、ワインを1本持ち出して、日当たりの良い桜の樹の下にシートを引いて、サンドイッチをぱくつきながら寝っ転がる。上着はいらないくらいあったかい。うららかな陽気に誘われて、同じように浮かれた顔つきの人々がレジャーシートを広げていた。犬の散歩に来ている人も多く、いろんな犬種を見かけて幸せだった。犬たちもなにやら朗らかな顔をしているみたいに見えた。

連れとの関係はすっかり変質した。「今後恋愛関係になることはないし、なんならたぶん恋愛関係であったこともない」と書いた3年前の言葉はすっかり嘘になっている。昔よりもずっとお互いのことを見ている時間が増えた。今さらこれが恋愛だとか名付けることに興味はないのだが、すくなくとも3年前には想定していなかった形で、私たちは自分たちの意志にもとづいて一緒にいる。今の生活のことは心底愛しているが、あの遠くもなく近くもない距離感がときどき懐かしく思われる。それはたとえば、こうして交際を再開する前の記憶が紐づくような日に。

日が落ちてきて、買い物をして帰宅したのが午後6時過ぎ。サンドイッチですっかり満腹になってしまったので、腹がこなれるまでは数当てのカードゲームをして遊んでいた。夕食は蛍烏賊と春キャベツのペペロンチーノ。

2024/3/31

前の晩、好きだった女の子と別れ、ホテルの部屋で連れと通話しながら夕飯をとって、シャワーを浴びてベッドに潜り込んでからも、気持ちがたかぶってなかなか眠れなかった。寝たら終わってしまうことが悲しくて名残惜しかったからだ。けっきょく、午前2時近くまで寝付けずにいたので、空港に向かう午前6時半の電車にはぎりぎりで滑り込んだ。

昼過ぎには成田空港に到着。日本は夏日。持ってきた沢木の単行本は読み切ってしまったが、たまには車窓を楽しんで帰るのもよかろうと思い、鈍行で2時間以上かけてゆっくりと帰った。昨日の朝よりも緑がひときわ濃くなったような印象があった。

帰宅して荷解きやら家事やらをして、一段落した頃にうっかり布団に意識を持っていかれてしまい、目を覚ましたのが午後5時すぎ。あわててオンラインの配信でコンサートを観はじめて、けっきょく最後まで見たけど、やっぱり昨日この目で、肌で感じたものには敵わなかった。当然といえば当然なのだけど、昨日に戻りたくて、恋しくてどうしようもなくなってしまった。

公演が終わった頃には9時をとっくにまわっていて、疲れもあってとても夕飯を用意する気にはなれなかったので、外食にすることにして、連れの帰りを待っていた。セブンティーンにまだ浸っていたい気持ちもあったものの、今日解散するセクゾのことも気にかかって、迷った末にこちらも配信ライブを観た。 すごくすごく良いライブだったし、良いグループだなと思った。単純な熱量の多寡という以上に、私は彼らの作品や人となりに向き合おうとすることなしに楽をして楽しもうとしてしまったというか、彼らに対してあまり真摯なファンではいられなかったなという後ろめたさがあるのだけど、まがりなりにも彼らに惹かれた人間のひとりとして、彼らの大事な日を見届けることができてよかったと、それだけは間違いなく思った。

けっきょく夕飯はピザをとって、店舗まで往復30分ほどの距離を、連れと夜風を浴びながら歩いた。春の気配にピザのチーズの良い匂いが溶け込んできたので、帰り道はすこし足早になった。食べながら『ダンジョン飯』の8話を観た。

2024/3/25

雨の朝、出社日。斉藤壮馬さんの音楽をかけながら身支度をする。色彩に欠けた日にこの人の音楽を聴くのが好き。

電車に乗りながら、やはりここは私のいるべき場所じゃない、と強く思った。人間と無機物にあふれすぎている。もっと呼吸を深くできる場所に帰りたい。昨日触れられる距離にあった湖が恋しかった。なんでここにいるんだろう。あと一駅で会社の最寄り駅に着くというところで、ちょうど佐々木隆治『カール・マルクス ー「資本主義」と闘った社会思想家』を読み終わった。先月読んだ斎藤幸平の新書で、理解の素地ができあがっていたというところが大きいのだろうが、すごくおもしろかった。その思想に自分と重なるものが多いのはわかっていながら、その屋台骨たる経済学的な視点については難しそうだからと敬遠してふんわりとした理解にとどまってきたが、その壁の一端を切り崩せた感触がある。まるで未来が見えていたかのように、マルクスの理論で、今の私が日々目にする社会の様々な動きが説明できることに、ただ圧倒された。駅前にあるクスノキが柔らかそうな新芽をぽやぽやと生やしている。早く欅の新芽も見たい。沈丁花とミツマタはそろそろ盛りがすぎて色が褪せはじめた。

膀胱炎の症状がひどくなっている。週末に体を冷やしたのがよくなかったんだろう。ドラッグストアで薬を買って、ついでに切れかけの化粧品とか日用品も買い足したらそれなりの金額になってしまった。帰り道にある桜の枝は、だいぶつぼみが緩んできていた。そろそろ咲くだろうか。

帰宅してからは、ふと思い立ってアニメ『SHIROBAKO』を観てみた。どういう会話の流れだったか、数日前の夕食時に連れと話題になったのが頭の片隅に引っかかっていたのだ。連れは今日は飲み会でいない。朝まで帰ってこないと思う、と言われていたので、食卓に昨晩の皿が残っているのは放置して、ソファの上でアニメを観ながら夕飯を食べた。昨日作った鶏肉と葱の醤油煮の煮汁の残りを炒飯につかったら美味しかった。あとは昨日の残り物のピーマンの白だし酢和え。けっきょく、8話まで一気に観てしまった。酔った連れからは甘えるような連絡が時折入る。12時をまわってから布団に入り、梨木香歩の『家守綺譚』を読み進めているうちに眠くなる。あと残り数ページだからがんばって読んでしまおうかとも思ったけれど、眠気に邪魔されて味わえないのはもったいないので、そこで読むのをやめた。

2024/3/24

日の出から間もない頃に目が覚めたが、寒さに負けて寝袋から出られなかった。ようやく抜け出たのは6時をまわっていた。車の屋根にも窓にも、地面の石や落ち葉にも霜が降りて、一面きらきらしていて、それは美しい眺めだった。でも、太陽が出たらみるまに溶けて水滴に戻っていった。昨日あれだけ荒れていた湖面は穏やかに凪いでいて、なめらかに光を受け止めていて、息をのむほど静謐な世界だった。私がいるべき場所にすこし近づけた気がして嬉しかった。

片付けのことを考えるとそこまで悠長にしている時間もなかったのだが、とりあえず椅子をテントの外に出してきて、湖に向かって座って、コーヒーを淹れた。つめたい空気の中で飲むコーヒーほど美味しい飲み物もない。昨日の残りのミネストローネを温めなおして、バゲットに切れ目を入れて、昨日のアヒージョの油の残りで炒めた野菜と、バーナーで焼いたソーセージをはさんでホットドッグを作った。牛乳がすこし余ったので、コーヒーのあとにチャイも飲んだ。

片付けを終えてキャンプ場をあとにしたのが午前11時ごろ。空腹にはあと一歩というところだったので、車で西湖の周りをぐるりと一周した。昨日は気が付かなかったが、あちこちに残雪がある。積もっていた雪が溶けて穴が空いて、独創的なオブジェが林立していた。『もののけ姫』に出てくるこだまの背を伸ばしたみたいなやつら。いつ降ったものなのか、その高さから察するに、もともとはかなり深さがあったはずだ。

いい感じに腹が減ったので、せっかくだから名物を食って帰ろうとほうとう屋に寄る。最初に目星をつけていた店は満席で入れなかったので、近くにある系列店を教えてもらってそちらに行った。でかい鍋に野菜とうどんがたっぷり。寒いだけに美味しさもひとしおに思われた。甘く溶けた南瓜が愛しかった。従業員は重そうな鍋を両手に下げているというのに、まるで部活の走り込みかという勢いで終始店内を走り回っていて、かなり体力的にきつそうですごかった。

運転中の親友が眠気を訴えたので、談合坂のサービスエリアで休憩がてら、信玄餅アイスをおやつに食べた。連れにも土産の信玄餅を買う。甘いもの欲がふつふつとしていたところだったので美味しかった。

16時前に帰宅。とにかく早く煙の匂いを落としたくて、風呂を沸かして入った。そのまま布団に倒れ込んだら間違いなく気を失うのが目に見えていたので、寝室に近づかないようにして、簡単な掃除をして、洋服にアイロンをかけて、夕食を作りながら連れの帰りを待った。鶏と葱の醤油煮とピーマンと塩昆布の白だし酢和えを作った。あとは残り物の大根とツナのマヨネーズ和え、麻婆キャベツ春雨に、土産のビールと信玄餅。けっこうがんばったと思う。道具をばらしたり運んだりしてふだん動かさない筋肉をこきつかったので、体はばきばきになっていたが、寝る前に連れがマッサージをしてくれた。連れのマッサージはほんとうに上手で、こわばっていた体がほどけていくのがわかる。あっという間に眠りに落ちた。

2024/3/23

8時に親友が迎えに来た。車を買ったことは知っていたが、乗るのは初めてだ。凝り性の親友らしい、左ハンドルのマニュアル車なので、オートマの免許しか持たない私は運転手役にはなれない。睡魔が近寄ってこないように、助手席でひたすらどうでもいい話を続ける。

出発したときから冴えない色の空だったが、山梨に向かうにつれて雨が降り出し、それが雪に変わった。アウトドア向けの商品の品揃えが抜群に良い大きなスーパーで食材を買い込み(同じようにアウトドア装備の客ばかりだった)、西湖のほとりのキャンプ場に到着したのが昼前。雨と風が強くて、服を7枚着込んでいるというのに寒い。キャンプ場のオーナーには、バンガローにしなくていいの?と心配されたが、せっかくキャンプに来たのだからとテント泊にこだわった。ところがテント設営の間にどんどん風も雨も勢いを増していったのには閉口した。野営の経験は学生時代にそれなりにあるけど、ほとんどが夏だったので、冬の悪天候にはあまり耐性がないのだ。どうにか雨と風がしのげる最低限の設営だけ終えて、空腹と寒さに耐えかねて震えながら作ったインスタント麺は、めちゃくちゃ美味しかった。

午後になると雨はだいぶ弱まった。薪ストーブをテント内に設置して火を焚いてからは、ほとんど寒さも気にならず、火の番をしたり、酒を飲んだり、食事の準備をしたりしながらゆっくりとすごした。じゃがいもとキャベツとマッシュルームと玉葱を刻んで、薪ストーブの上のダッチオーブンにあふれるほどに入れてトマト缶で数時間煮込みながら、同じようにストーブの上で熱したオイルサーディンの缶をつまみに酒を飲む。これが大人のキャンプかあ、と思う。楽しいし、間違いなく贅沢だけど、北海道を自転車で走っていた頃の、最低限の装備でする野営が恋しいような気もした。日が傾く頃にはすっかり晴れて、景色が見えるように開け放ったテントの入口からは、湖の向こうに青と橙の美しいグラデーションが見えた。雲が切れると、湖の向こうに今まで見えていなかった山が姿をあらわした。上半分ほどはわずかに雪化粧をしている。その麓に白い雲が細くたなびいていて、まるで龍みたいで、すごくきれいだった。きっとあの向こうには、知らない王国があるのだろうと思う。

思い出したように会話して、また黙って薪をかきまわして、また会話が再開して、それを繰り返しているうちに、橙がどんどん薄らいでいって、それがどんどん濃紺に置き換わっていった。ミネストローネの具がどんどん溶けていくのを横目に、蛍烏賊とアスパラガスとブロッコリーでアヒージョを作る。長めのバゲットをひとつ買っていたが、アヒージョもオイルサーディンもあまりにパン泥棒すぎる味なものだから、みるみるうちに減っていった(とはいえ、ミネストローネも食べたらすっかり腹がふくれて、半分弱は翌朝にまわした)。ビールがなくなったあとは、山梨産のデラウェアのワインを飲んでいた。デザートワイン的な甘さだったが、気に入ってこちらもするすると空になった。

日が落ちきってしまうと、星がよく見えた。親友は、初めて北斗七星をきちんと見たとはしゃいでいた。ほとんど満月で空が明るかったのが残念。新月の日だったらきっともっとよく見えたことだろう。夜が更けるとぐっと冷え込みが厳しくなった。親友が持参してきたクラフトジンジャーシロップをチャイに入れたものがいっそう味わい深くて、なかなか良かった。寒さというものを、長いこと味わっていなかったと思った。

2024/3/16

9時台に一度目を覚まして2度寝して、次に目が覚めたら12時半になっていた。慌てて支度をして、昨日の残りの麻婆豆腐をかきこんでボランティアに行く。すっかり空気が春で、駅から会場まで10分ほどの道のりを小走りに行ったらじっとり汗ばんだ。そこら中に花が咲いていて嬉しい。木蓮がよく咲いている。とおりすがりの玄関先に置かれた鉢植えの桜も開いていた。ハコベ、タネツケバナ、ミミナグサ、ノボロギク、ホトケノザ、ナズナ。沈丁花の甘い匂いがあたりに立ち込めている。もしいつか庭のある家に暮らせるなら植えたい木のひとつだ。

帰りは歩いて帰った。夕方になると幾分気温は下がるけれど、それでも30分近く歩けばそれなりに暑さを感じる。連れは布団で漫画を読んでいた。隣に潜り込んで、私はブラッドベリの短編集を読んでいた。日が落ちて、室内が文字が読めなくなるほど暗くなるまでそうしていて、それから二人で買い物に行った。春野菜という響きに浮かれてまたキャベツを買ってしまった。深い緑。あと鰯が半額になっていたので買った。

帰宅してすぐに夕飯作りに取り掛かる。ところどころ手伝ってもらえるだけでも格段に早くなる。春キャベツはロールキャベツにした。初めて作ったけど、案外難しくない。鰯は梅煮にした。あとはトマトと胡瓜と新玉葱をマリネに。鰯の梅煮がちょっと浮いた顔ぶれになってしまったけど、味はどれもよかった。

夜勤の連れを送り出して、また1週間分の日記を書いて、『ブルーロック』の続きを観て、ブラッドベリの短編集を読み終えてから眠った。ブラッドベリ、残りのページが少なくなるにつれて読み終わりたくない気持ちが増して読む速度が落ちていくのだけど、それでも読んでいれば終わりは来てしまう。ほんとうに大好きな作家だ。